第193話 幸せの絶頂
自室の扇風機に当たりながら、時雨は火照った身体を解すために涼んでいる。
結局、目を閉じてやり過ごす事に成功したが、柚子と凛はそんな時雨に面白おかしくちょっかいを出して反応を楽しんでいた。
「ふぅ、楽しいお風呂だったわ」
凛が続いて自室に入って来ると、持参した寝巻に着替えて時雨の隣に座る。
髪を掻き分ける仕草が妙に色っぽくて、ほのかに香るシャンプーの香りが時雨をドキドキさせる。
「素敵なお姉さんね。私には縁がないから時雨がとても羨ましいわ」
凛は扇風機に当たりながら、ぽつりと呟く。
前世で一人っ子だった凛は転生後も変わらずのままだった。
当時は弟のシャインとの思い出を語ったりして、凛は兄弟関係について興味を惹いていた。
弟や妹がいたら、きっと姉として立派に振る舞って優しく接していたんだろうと安易に想像できる。
兄や姉がいたら、妹として甘えていたのかもしれない。
「いつもあんな調子ですから、妹の立場から大変ですよ」
「ふふっ、賑やかでいいじゃない。そんなお姉さんを時雨は大好きなんでしょ?」
「まあ……嫌いではないです」
時雨は言葉を濁しながら頷く。
色々とツッコミどころのある姉ではあるが、いざとなれば頼りになる存在でもある。
前世では弟のシャインが人懐っこい性格で兄であった時雨を慕ってくれた。
そのシャインも転生後は笹山香として時雨と幼馴染の付き合いを始めてから、色々と深い関係を築き上げてきた。
時雨も妹の立場になって、当時のシャインの気持ちが理解できたような気がする。
「私も妹や弟が欲しいなぁ。今の両親に頼んでみようかしら」
凛は思いを馳せながら想像を膨らませる。
こればかりは頼んでどうにかなる訳でもないので、時雨は返答に困ってしまう。
「頼んでみなさいな。私も凛ちゃんの妹や弟をギュッと抱きたいな」
自室の扉が開くと、柚子が寝間着姿で現れる。
そして時雨を強く抱き締めてその思いを凛に伝える。
「ちょっと、お姉ちゃん!?」
「予行演習だと思って、凛ちゃんも時雨で遠慮せずにどうぞ」
柚子は手招きして凛を誘い込む。
時雨の意思は完全に無視されているが、凛も意地悪そうな笑みを浮かべて時雨に抱きつく。
二人に抱かれる時雨は次第に体温が上昇するような感覚に陥り、幸せの絶頂を迎えて倒れ込んでしまった。