第192話 柚子風呂②
脱衣場で時雨は逃走を図るも柚子に阻まれる。
「ふふん、逃げようとしても無駄だからね」
「わ……私は後で入るからいいよ! それに三人だとお風呂も狭いし、窮屈だよ」
時雨は絶対に入らないと確固たる意志で必死になって理由を並べる。
以前、凛とお風呂に入った時はある程度視界を閉じてやり過ごせたが、今回は違う。
狭いお風呂で凛と柚子を視界に入れないでやり過ごすのはとても不可能に見えるが、幸いな事に自宅のお風呂を使用しているのでシャワーやシャンプーの配置は大体把握している。
視界を閉じていても、やり過ごす事は可能だと時雨は判断する。
「凛ちゃんも時雨と入りたいって言ってるし、何も問題ないでしょうに。そら、観念しなさい」
柚子に衣服を脱がされると、時雨は目を閉じて恥ずかしがりなから身体を手で隠してお風呂へ入る。
視界を閉じているので詳しくは分からないが、柚子と凛の楽しそうな声が耳に入って来る。
「凛ちゃんはスタイルいいねぇ。裸になっても清楚なお嬢様のイメージが崩れず、まるで一国のお姫様を彷彿させるわね」
その通りなんだよなと時雨は柚子に同意する。
柚子には凛の正体を明かしていないので、勘の鋭さは侮れない。
時雨や加奈の正体は明かして納得しているのだから、いまさら凛の正体を秘密にしておく必要はないかもしれない。
「お姫様だなんて……柚子さんも引き締まった身体は素敵ですよ」
凛は肉体美を褒めるとモデルをやっていた経験もある柚子は今でもそれなりに気を遣って身体を鍛えている。
時雨は生唾を飲んで理性を抑えながら凛の正体について語り始めようとする。
「お姉ちゃん、実は……」
「おっ、私達の話でついにその気になったな。実は前世の男だった部分が爆発して我慢できなくなったとか?」
「いや、そんな訳ないでしょ!? 凛先輩の前で誤解を招くような言い方は……」
「必死に否定すると返って真実味が増すわね。まあ、美人二人を前にしたらムッツリな時雨さんには刺激が強過ぎたか」
香にも言われたが、まさか実の姉にムッツリ認定されるとは思わなかった。
こんな事なら、柚子に自身の前世を教えなければよかったと後悔してしまう。
「だから違うのぉ!?」
時雨は視界を閉じながら虚しくお風呂場で轟き叫ぶと、柚子と凛にからかわれながら我が家の柚子風呂に浸かった。