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第190話 姉妹の絆

 残った料理の皿は常温と冷蔵庫に保管できる物に分けて、食べ終わった食器はまとめて洗っておく。

 お礼のメモ書きを一筆書いておくと、時雨は凛と目を合わせる。


「今日のところは一旦帰りますか」


「そうね。この女神様にはまだまだ色々と聞きたい事があったけど、またの機会にしましょうか」


 本当は食事を交えながら女神や転生について語ってもらいたかったが、この有り様ではそれも叶わない。

 住所やキッチンカーで回る営業場所も把握できたし、時間が空いたらまた会いに行けばいい。

 二人は布団で幸せそうな顔で寝ているミュースに軽く会釈をしてお礼を述べると、照明を消して部屋から退散する。


 アパートの外へ出ると、夕日も沈んで空は暗くなり始めていた。


「今日は楽しい一日だったわ。やっぱり、時雨と一緒なら毎日が退屈しないで済むわね」


「危うく殺されそうになりましたけどね。でも、たしかに思い返せばここ最近は退屈しない出来事が波のように押し寄せましたね」


 今日だけでもエルフと入れ替わり、女神から真実を語られた後に違う女神に殺されかけて女神に食事を持て成してくれたが、結局酔い潰れて今に至る訳だ。


 ミュースの部下である女神のミスで時雨達は記憶を継承して転生した訳だが、時雨が今一番気になっているのは柚子の存在だ。姉の柚子とは生まれた時から姉妹として一緒に過ごしたが、凛や紅葉のような前世の気配は感じなかった。香や加奈も付き合いは長いが、前世の気配は感じ取れなかったし何か法則性があるのだろうか。


 その辺りの事情を食事前にミュースから聞いておけばよかったと時雨は後悔してしまう。

 ミュースは本人に直接訊ねた方が納得すると言っていたが、あの口振りだと前世で時雨の知り合いだった可能性がある。

 時雨の知人や関係者だった者を何人か思い浮かべるが、どれも該当する人物は見当たらず謎は深まるばかりだ。

 柚子も時雨達と同じ境遇なら、果たして前世はどのような人物だったのだろうか。


「時雨、真剣な顔をしているけど何か悩み事でも?」


「いえ、大したことではありませんよ。少し姉の事で考え事をしていました」


「例の私達と同じ転生者の件ね。時雨の知り合いなら、私ももしかしたらお姉さんと前世で出会っているかもしれないわ」


 自慢ではないが、前世で時雨の知人と呼べる人物はそんなにいない。

 凛の護衛に就いてから、色々な場所に顔を出す機会があったので顔馴染みになった人物も多い。


「でも、前世がどんな人物でも今は時雨のお姉さんである事実は変わらないし、無理に聞く事はないかもしれない」


 もし正体を明かしてもいいなら、あの時例の手鏡を自身に使って打ち明けていたただろう。

 それをしなかったのは、時雨に知られたくはない何か理由があるのかと勘繰ってしまう。

 無理に問い質して、今まで築いた姉妹の関係が壊れてしまうかもしれないし、凛の言う通り胸に閉まったままの方がいいかもしれない。


「……そうですね」


 時雨が小さく頷くと、いつか柚子の口から話してくれるその時が来るまで待っていればいい。

 血を分けた姉妹の絆を信じて、二人は揃って帰路の道を辿った。

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