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第182話 白いクリーム

「……正直言いますと、ぶん殴られる覚悟もしていたんですよ。私の部下も時雨さん達と同じ境遇の転生者にぶん殴られましたし、魂を管理されてミスでしたって事実を突き付けられたら誰でも怒りたくはなりますからね」


「殴ったところで何も変わりませんよ。それどころか、後味の悪い気分しか残らないでしょう」


 ミュースは腹の内をぶちまけると、たしかにミュースの言う通りなのかもしれないが、この女神を殴ったところで、全て解決する訳ではないし時雨や凛にとってそれは重要ではない。


「それより、もう土下座は止めて下さい。私や凛先輩はその事で咎めたりはしませんから」


「そうですか……」


 ミュースが立ち上がると、深く一礼して言葉を続ける。


「何か困った事がありましたら、何でも頼って下さい。私ができる範囲の事でしたら支援は惜しみません」


 力強く二人に握手をするミュースに嘘はないと時雨は思う。


 しばらくしてキャンピングカーの前で二人連れの女性客が現れると、店主であるミュースを探すように声を上げる。


「私達の事は構いませんので、お客さんの相手に行ってあげて下さい」


「分かりました。どうかゆっくりして行って下さいね」


 時雨は気を利かしてミュースを女性客の下へ送り出すと、駆け足でキャンピングカーへ戻って行く。

 悪い人、この場合は悪い女神と言う表現が適切なのかもしれないが、真っ直ぐな性格の持ち主で時雨達に真摯な態度で臨んでくれた。


 接客に臨むミュースを遠くから眺めていると、凛は可笑しくなって笑みがこぼれた。


「少し意外かな。ほら、神話に登場する神様って神々しくて威厳があるイメージがあったけど、あの女神様はまるで上司と部下の板挟みにさらされている中間管理職のサラリーマンみたい」


「まあ、そう言われるとそうですね。従来通りのイメージなら、あんな丁寧に謝られるより、『すまん、ミスしたから許してくれ』って一方的な対応だったかもしれませんね」


 凛の例えは面白い解釈だなと時雨は納得してしまう。


 名刺を見直すと、役職に統括長とあるぐらいだから女神も人間社会と同様に上下関係はしっかり線引きされているのかもしれない。


「いただいたクレープを食べましょうか」


「そうですね。クレープを買いに来たのに、とんでもない話を聞かされて今まで忘れてました」


 すっかり温かかったクレープ生地も冷めてしまい、二人は注文したクレープを口に入れていく。

 女神が作ったクレープなので、普通のクレープより美味しいかもしれない。

 先入観にとらわれながら甘い味が口一杯に広がると、たしかに美味しいのだが期待していた程ではなかった。


「時雨のクレープも少しもらってもいいかしら?」


「ええ、どうぞ」


「ふふっ、ありがとう。時雨も私のクレープを召し上がれ」


 凛は時雨のクレープを所望すると、時雨は快く自分のクレープを差し出す。

 彼女の小さな口でクレープをかじると、時雨もそれに倣ってクレープを一口かじる。

 すると、凛の頬に白いクリームが付いているのに気付くと、時雨は小さな舌でペロリとクリームを舐めてみせた。


「凛先輩、ほっぺにクリームが付いていましたよ」


「……ありがとう。キスでもされるのかと、ドキドキしちゃった」


「そんな許可もなく……キスなんてしません」


「許可があればいいのね。私はいつでもしていいから、時雨の思う存分やっちゃっていいよ」


「もう、悪い影響を加奈から受けたのですか。私をからかわないで下さいよ」


 時雨は呆れた声で自分のクレープを噛みながら赤面する。


 冷静に考えれば、頬のクリームを持参しているハンカチで拭いてあげればよかったのだ。

 それをどうして自身の舌で舐めるような行為に至ったのか。

 凛に甘えたかったのか。

 それとも潜在的に凛の事を――。

 時雨がじっと凛の瞳を見つめると、心の高鳴りは収まらない。


(私は凛先輩が……)


 一つの答えが導き出されようとした瞬間、キャンピングカーから悲鳴にも似た声が轟いた。

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