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第174話 モフられる時雨

「ロイド、こっちよ」


 時雨を前世の名前で呼んでいる女性は植木の手入れが行き届いた庭園を横切って、地下に続く酒蔵の扉を開ける。

 女性は時雨の主でシェラート姫、転生前の凛である。


「シェラート姫、お待ち下さい。勝手に入ってはまた父上にお叱りを受けますよ」


「この前の晩餐会に美味しいワインがあったの。あれを一本拝借するから、手伝ってよ」


 普段は衛兵が巡回しているので、目を盗んで酒蔵に忍び込むのは苦労した。


(ああ……懐かしい夢だな)


 これが夢であるのは承知しているし、この後の結末もよく覚えている。

 最初は凛の気まぐれで自分が飲むためだと思ったが、そうではなかった。

 凛の友人で同い年の貴族令嬢が流行り病に伏せって、余命が短い事も医師から宣告されていた。彼女のために、せめて最期はお互い美酒に酔って穏やかな時間を過ごしたいと凛は願っていた。


「あった!? さあ、これを持って撤収よ」


 目当ての物を抱き抱えて、二人は出口扉を開けると、陽の光が差し込んで現実に戻された。

 時雨は覚醒して起き上がると、頭を抱えながら時計を見ると眠ってから一時間が経過していた。


「あら、お姫様がようやくお目覚めのようね」


 凛は椅子に座って足を組みながら読書していた本を閉じると、時雨に微笑みかける。

 その隣には時雨の姿をした優奈が険しい表情でこちらを凝視している。


「まずは水でも飲んで落ち着きなさいな」


「あ……ありがとうございます」


 時雨は水の入ったコップを飲むと、気持ちも幾らか落ち着いた。

 窓の外から心地よいそよ風に当たると、一呼吸おいて現状を確認する。

 そんな時雨に凛は額を合わせると、時雨は恥ずかしがって自然と凛から視線を逸らしてしまう。


「随分と可愛い寝顔だったわ」


「それは……どうも」


 精一杯の言葉をひねり出して返事をする時雨は気持ちが落ち着いたばかりなのに、心臓が再び激しい鼓動を鳴らし始める。


「ふふっ、そう言うところはエルフになっても全然変わらないな。まあ、それが時雨らしいから私は好きだけどね」


「えっ?」


 時雨は訳が分からず、ポカンと呆けてしまう。

 助け舟に優奈が間に入ると、事細かく状況を説明してくれた。


「時雨さん、私達が入れ替わっている事は全部バレていますよ。ついでに凛さんを気絶させる算段も見抜かれてます」


「ええっ!?」


 疑問から驚きに変わると、時雨は改めて凛と顔を合わせると非常に気まずい雰囲気になった。


「私を気絶させるために、そんな姑息な手を使用するなんて良い度胸ね」


 凛は怒りを込めてエルフ姿の時雨の長耳を迷わずモフり始めると、全身に力が抜けて無抵抗になってしまう。


「あ……あう。凛先輩、すみませんでした!?」


「謝って済むのなら、警察や騎士もいらないわよ。少し反省なさい」


 まさか加奈の長耳を散々モフった時雨が自身も同じ体験をする羽目になるとは想像もしていなかった。

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