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第171話 泥沼

 自室に戻ると、時雨は邪魔にならないようにベッドの上に座って優奈と凛の様子を見守ると優奈は時雨を上手く演じて凛と勉強を始める。


「とりあえず、この問題集を軽く解いていきましょうか。分からない問題は私と一緒に考えながら答えを導き出しましょうね」


 凛はにこやかに手持ちの鞄から各教科の問題集を取り出すと、まるでプロの家庭教師みたいだ。


 高校生の問題集を中学生の優奈が解けるか不安になったが、問題集と向き合うと、すらすら解いていく。


(だ……大丈夫かな?)


 時雨は息を呑んで見守るだけしかできない。

 想定外の速さで解いていく優奈に対して、凛は呆然とその様子を眺めている。


「どこか分からない問題はないかしら?」


「あっ、今のところ大丈夫です」


「そ……そう。あまり無理しないでね」


 凛が声掛けするも、優奈は素っ気ない態度で問題集と格闘を続ける。

 もどかしい気持ちが芽生え始めた凛は肩を揉んだり、お菓子を勧めたりと優奈の気を逸らそうとするが、全て跳ね除けられてしまう。


(構ってほしいんだなぁ)


 当初の予定では雑談を交えながら勉強を進めていくつもりだったのだろうが、完全に当てが外れてしまった感じだ。


 そんな凛は標的をエルフ姿の時雨に変えて、雑談を交える。


「ユナさんはどこの国の出身かしら?」


「えっと……アメリカです」


「アメリカでしたか。日本語はお上手ですし、時雨が問題集を解いている間に英語を教えてもらおうかしら」


 出身国を聞かれて安易にアメリカと答えた時雨は後悔してしまう。

 中学生の頃から英語の成績は平均点ぐらいで、とてもじゃないが凛の期待に応える事はできない。


 優奈が咳払いをして、余計な事を言うなと言わんばかりにこちらを睨む。

 何とか誤魔化そうと思考を巡らせると、冷や汗をかきながら弁解を述べる。


「両親とずっと日本で暮らしていたので、英語は全然ダメなんですよ。先程の片言の日本語も凛さんと仲良くなるために挨拶代わりみたいな感じで喋っただけなので、期待させてすみません」


「そうだったんですか。私もユナさんともっと仲良くなりたいので、よろしければ電話番号とか交換してもいいですか?」


「えっ? ええ……構いませんよ」


 何だか泥沼にはまってしまっているような気がしてならないなと時雨は思う。


 時雨はいつも使用しているスマホを取り出そうとすると、凛は可笑しそうに笑って指摘する。


「ふふっ、それは時雨のですよ。ユナさんって意外としっかり者のようで、おっちょこちょいな感じで可愛らしいわ」


「ははっ……」


 さらに優奈は鬼の形相で時雨を睨むと、板挟みな状態に参ってしまう。


 時雨は優奈のスマホを手にすると、申し訳なさそうに心の内で謝りながらも凛と情報交換を済ませる。


(神経が擦り減りそうだよ……)


 窓ガラスに映る自身を覗き込むと、エルフ姿の時雨は無事に元の身体に戻れるのだろうかと心配が募るばかりだった。

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