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第163話 ハラハラする授業

 一限目の授業が始まると、時雨は窓辺の席で、ぼんやり外を眺めていた。

 昨日までのゴールデンウィーク期間を懐かしむと、時雨にとって人生で一、二を争うぐらい充実した日々を送れたと思う。


 校庭では二年生が体育の授業でサッカーをやっている。


(あっ、凛先輩と紅葉先輩だ)


 丁度、紅葉がパスしたボールを凛が巧みなドリブルで突破していくと、シュートを放って敵陣のゴールネットを揺らした。

 凛と紅葉はハイタッチを交わすと、校庭にいる女子生徒達の黄色い声援が聞こえてくる。


 今の時雨は一般的な女子高生と変わらないぐらいの身体能力で、剣道以外もスポーツ全般が得意な二人を見ていると、羨ましいなと思う。

 加奈もダークエルフ姿の時は俊敏な身体能力を発揮して、まるで重力から解放された鳥のようだった。


「鏑木、この問題は解けるか?」


 教壇に立っている先生の声で、時雨は現実に戻される。


「答えは3です」

「正解だ。少しぼっーとしているように見えたが、気のせいだったか」


 予習していたおかげで難なくその場を切り抜けると、先生から特に注意される事もなかった。

 上の空だった気持ちを切り替えて授業に集中しようとすると、席の近い加奈の姿が視界に映る。

 加奈は机の引き出しから何かを取り出すような動作をすると、とんでもない代物が時雨の目に飛び込んできた。


 それは時雨が加奈に預けた手鏡であった。


(何で学校に持ち込んでいるんだ!)


 てっきり、目の届かない場所に保管をしてくれたとばかり思っていたが、まさか学校に持ち込んでいるとは想像もしていなかった。

 加奈は手鏡がバレないように机の下から手鏡を同級生の女子生徒達に向ける。


 手始めに加奈の左右にいる女子生徒を標的にすると、手鏡の結果に頷いた仕草をしたり、目を見開いて驚いたりしていた。


(こら!? 何やってるんだよ)


 時雨は机の横に置いてある鞄から教壇に立っている先生の目を盗んでスマホを取り出すと、加奈にメッセージを送信する。


『何で学校にあの手鏡を持ち歩いているんだ!』


 時間差で加奈のスマホにメッセージが届くと、それに気付いた加奈は机の引き出しからスマホを取り出して確認する。


 そして一通のメッセージが返信されてきた。


『私の右の席にいる大人しめの麻衣(まい)修道女(シスター)で、左の席にいるゆるふわ女子の良子(よしこ)は筋骨隆々で銛を持った漁師よ』


 えっ、そうなのと思わず目を丸くして時雨は麻衣と良子を見比べる。

 手鏡の結果には驚かされたが、時雨が言いたいのはそんな事ではない。


 加奈は大胆にも手鏡を教壇に立っている先生に向けると、その結果に笑いを堪えて時雨に返信する。


『衝撃的な事実が発覚! 数学の笠原は貴族令嬢よ』


 これにはさすがの時雨も「えっ!?」と声を上げてしまう。


「鏑木、どうかしたのか?」

「いえ……何でもありません」


 時雨は慌てて弁明すると、隠し持っていたスマホが見つかってしまい没収されてしまった。


「授業中にスマホは覗くなと言われているだろ。放課後、職員室に来なさい」

「はい……」


 時雨が平謝りする傍らで、加奈はどんまいと言わんばかりに手鏡を時雨に向けて前世の冴えない騎士時代の時雨を映し出していた。


(今度ダークエルフ姿になったら長耳をモフってやる)


 心の中で小さな復讐を誓うと、モヤモヤした気持ちのまま放課後を迎えた。

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