第160話 加奈の気になっている事②
「お姉ちゃんが?」
意外な名前が挙がったので、時雨は首を傾げた。
思い返してみるが、特に気になるような点はなかったと記憶している。
「私がダークエルフになったのがバレて、時雨も前世の姿を柚子さんに手鏡で見せたじゃない?」
「ああ、子供のようにテンションが上がって加奈の長耳をモフったりしたね」
おかげであらぬ誤解を招いて大変だったが、加奈も弱点を突かれると快楽が絶頂に達して気絶する始末。
カオスな状況に陥ったのは言うまでもなかった。
「私や時雨の前世の姿には興味を示してくれたけど、柚子さん自身は手鏡を覗くような事はしなかったんだよね」
「……言われてみれば、結局覗かなかったね」
加奈の指摘で気付いたが、たしかに柚子は一度も手鏡を覗くような真似はしなかった。
柚子も加奈同様に興味を示した物には首を突っ込むタイプの性格なので、覗かなかったのは意外だった。
「自分の前世より、加奈のダークエルフ姿に興味が移っただけかもしれないよ」
柚子はモデルでコスプレもしていた経験もあるので、割とファンタジーに対して抵抗は薄かった。そのおかげで、時雨や加奈の前世もすんなり受け入れてくれた。
「お姉ちゃんは口々にエルフは頑固で清楚な淑女で、ダークエルフは寡黙で従順なエロいお姉さんだって豪語していたからね」
「それもなんだかなぁ……」
時雨はあくまで柚子の主観で感じ取っている事を伝えると、加奈は納得いかない様子だ。
実際に優奈は柚子が抱くエルフの理想像に当てはまるが、加奈の場合はエロいだけしか該当しないなと時雨は思う。
「加奈が寡黙になったら、絶対変な物でも食べたと勘繰るよ。自身の欲望には従順だけど、エロいお姉さんって言うより、エロいオジサンに近いよ」
香は食後のデザートであるパフェを頬張りながら、加奈のダークエルフ姿に言及していく。
「ちょっと!? 何でオジサンなのよ。ほら、ちゃんとおっぱいもあるし、エロいお姉さんでしょ!」
「加奈、落ち着いて……」
加奈は興奮して反論すると、周囲の目は一気に時雨達へ集中する。
時雨がなだめると、香は続けて言葉にする。
「だって、加奈は僕の胸やお尻を触ったりして良い形してるじゃんって得意気に言うからね」
「それは友情を深めるスキンシップよ。時雨にもやっているから、問題ないわ」
いや、問題あるだろと思わず突っ込むと時雨は呆れてしまう。
女性同士でも相手が嫌がって過度なスキンシップはセクハラになると告げると、加奈はそっぽを向いて返事をする。
「へーい、気を付けますよ」
話は逸れてしまったが、柚子の件はダークエルフ姿に興味が移ったと結論を出した。