第16話 アウトレットモール
日曜日、時雨と香は堅苦しくないカジュアル系の服装で、水着を選ぶためにアウトレットモールへ来ていた。
休日で家族連れやカップルの姿で賑わっており、入口に配布されているパンフレットを手に取って地形や店の位置を把握する。
以前から感じていた事だが、通学の電車や都心で買い物に出かけたりする時は常に人混みができている。
(まるで、お祭り騒ぎだよなぁ)
前世で暮らしていた王都も、冒険者や商人で活気付いていたが、この世界はその比ではない。
夜には電気が灯って、暗闇を打ち消す手段もあるし、小学生の頃に今の両親に連れられて商業ビルの屋上から眺めた景色は衝撃的で、煌びやかな印象が残っている。
魔物もいないし、犯罪は全くないわけではないが、それでも前世と比べれば格段に治安が良いだろう。
時雨は感慨深い表情でパンフレットを睨んでいると、香は可笑しそうに笑った。
「そんな真剣に見なくても大丈夫よ。私はここに何度も来ているから、案内は大丈夫。万が一はぐれてもスマホで連絡を取り合えばいいだけだしね」
「うん……そうだね」
「じゃあ、行こっか」
香は時雨と腕を組んで水着ショップを目指して歩き出す。
途中、可愛らしいワンピースや帽子を見つけると、香は試着していく。
「これなんかどうかな?」
「香に似合っているよ」
「うーん……ちょっと色が合わないかな。今度はこれと組み合わせてみるね」
時雨は深い溜息をつくと、香は再び試着室に入る。
このやりとりは十回目だ。
女性の買い物は長いと言うが、これは前世と今も変わらない。
幼馴染の付き合いで、何度も一緒に買い物をしたりしてきたが、自身が女性に転生したからと言って耐性がある訳ではなかった。
ようやく香の試着が終わると、今度は時雨に似合いそうな服を見立てて、時雨を試着室に入れる。
「私はいいから、早く水着を選びに行こうよ」
「それじゃあ不公平よ。ちゃんと時雨も可愛い服を選んであげるからね」
香から何着か服を渡されると、時雨は試着室で渋々着替えを始めていく。
本人に悪気はないので、時雨のためを思ってやっているのだから、文句はなかなか言えない。
(これは水着の試着も時間がかかりそうだなぁ)
そんな事を考えながら、香の合格点をもらうまでに十五回も試着を繰り返した。
結局、お小遣いの予算がオーバーしそうなので、今回は諦めて水着ショップへやって来た。
学校指定の水着と違って、可愛らしいデザインの物が数多く店頭に並んでいる。
香は時雨を手招きすると、一着の水着を取り出してみせた。
「これは時雨に似合うと思うよ」
布の面積も十分にあるセパレート水着を選ぶと、これぐらいなら恥ずかしくないなと時雨は思った。
「私はこれに挑戦してみようかな」
香はさらに奥から水着を取り出すと、白のマイクロビキニが目に飛び込んできた。
布の面積が極端に少なく、香がこれを身に付けて海に出るのを想像すると、時雨は断固として反対する。
「こ……こんなの駄目だよ! 目のやり場に困っちゃうよ」
「時雨が喜んでくれるなら、これでもいいかなって思ったけど……駄目かな?」
「駄目!」
間髪入れずに両腕を交差させてバツを描くと、香はしゅんとした顔でマイクロビキニをそっと元の場所に戻した。