第156話 優奈の正体
「お姉ちゃん達には到底理解できない事かもしれないけど、笑わないで真面目に聞いて欲しい」
「笑ったりしないよ。喋りたくなければ、無理しなくてもいいからね」
「私は大丈夫。お姉ちゃん、気を遣ってくれてありがとう」
姿勢を正して座り直すと、時雨達は優奈の言葉に耳を傾ける。
「エルフやダークエルフは森の妖精と位置付けてファンタジーの世界観で有名だけど、あくまで架空の存在。最近ではテレビやネット等で幅広くその存在が認知されているから、お姉ちゃん達も一度は目にする機会があったりしないかな?」
「私は日頃からネットを活用するから、エルフやダークエルフが登場する漫画や似顔絵を見たりするよ」
優奈はエルフやダークエルフの出自について語り出すと、時雨は本棚から一冊の漫画を取り出して表紙絵にエルフが記載されているのを提示する。
時雨達が前世でエルフやダークエルフについての知識を有していた事については話がややこしくなるので伏せて置く。
優奈は表紙絵のエルフに視線が向くと、手に取ってじっと見据えている。
「よかったら、貸してあげるよ」
「あっ、そんなつもりじゃないんです。少し懐かしかったのでつい……」
時雨は気を利かせて漫画を貸してあげようとすると、慌てた様子で漫画を時雨に返す。
(懐かしい?)
この漫画は半月前に発売されたばかりで、優奈の懐かしいと言う表現に妙な違和感を覚えた。それは加奈や香も気付いたようで、単純に優奈が勘違いしただけかもしれない。
「あれは……」
優奈が机にあった手鏡を見つけると、興味を示して鏡を覗き込もうとする。
「あっ、待って!? それは……」
時雨が止めようとするが、間に合わなかった。
前世を映し出す鏡なんて説明したところで、到底信じてもらえるとは思えなかった。
手鏡は優奈の姿から変化を始めると、金色の長髪と長耳が特徴的で品行方正な大人の女性を映し出していた。
そして、優奈も加奈の時と同様に手鏡に映った姿へと変貌を遂げる。
「嘘でしょ……」
第一声に声を上げたのは加奈で、口を押えながら信じられない様子だ。
時雨と香も言葉を失って、呆然と優奈を見上げる。
「やっぱり、これはエルフ族が創った魔法具だ。効果は対象者の前世を映し出すってところかしら」
「優奈ちゃん……君はエルフなのか?」
「ええ、そうです。口で説明するつもりでしたが、こんな便利な物があって手間が省けました。時雨さんの仰る通り、私は前世でエルフ族でした」
声や背丈も大人っぽくなった上に、優奈は長耳をピンと立てて自身がエルフだと認める。
「私はエルフ、そして加奈お姉ちゃんは……」
優奈は手鏡を加奈に向けると、ダークエルフの姿を映し出して再びダークエルフになる。
まさか、エルフとダークエルフが顔を揃えて拝められるとは夢にも思わなかった。
エルフとダークエルフは犬猿の仲であるのはファンタジーの定番で、それは時雨がいた前世の世界でも例外ではなかった。
「優奈がエルフなんて……知らなかった」
「私も加奈お姉ちゃんがダークエルフなんて信じられなかった。でも、手鏡は真実を導き出した」
神様のいたずらなのか分からないが、姉妹の前世がエルフとダークエルフとは数奇な運命を辿っている。
はっきりしたのは優奈も時雨達と同様に前世の記憶を有していた。