第15話 進路
放課後、時雨のクラスは担任から来年の進路相談について説明を受けていた。
時雨や香のような高校一年の段階では文系か理系の選択肢だが、凛は高校二年生で大学・短大に進学か就職の選択肢を迫られている。
屋上で凛と放課後に商店街で福引きをする約束をしていたのだが、進路相談が被ってしまったために、約束の時間には間に合いそうにない。
時雨は机を陰にしてスマホで凛に謝りのメールを送っていた。
『すみません、担任から進路相談の説明を受けているので、今日の福引きは無理そうです』
すると、返信はすぐに返ってきた。
『それは残念ね。私の事は気にしなくていいから、またの機会に行きましょう。しっかりと進路を考えて頑張りなさい』
凛の励ましのメールを読むと、スマホをそっと鞄に閉まった。
本当なら、今頃は凛と香で商店街に赴いて福引きを回していただろう。
あわよくば、特賞の旅館宿泊券を入手して喜びを分かち合っていたかもしれなかった。
(それは都合良すぎか)
当初の予定通り、宿泊先は事前に決めておいた方が無難だろう。
最期に担任からプリントを配布されると、夏休みに入る前までに文系か理系のどちらか選択して、プリントを埋めて提出するように言われて解散となった。
「桐山先輩に悪い事しちゃったな」
「メールで私が謝っといたよ。気にしなくていいからって返信もあったから大丈夫だよ」
「そっか……」
香は福引きの件を気にしていたようで、時雨はメールの内容を香に伝えるとほっとした顔になった。
「今日のところは帰ろっか」
「そうだね」
香は時雨の手を繋ぐと、いつものように電車に揺られながら帰路を目指す。
幼馴染の彼女とはいつも手を繋いで歩いたりしていたが、周囲の人間からはお似合いのカップルだと茶化されたりした。
その事で、小学生だった頃の香は泣き虫で気弱だった性格もあって、同級生から泣かされていたが、時雨がその度に香を守ってあげていた。
今では身長も抜かれて、高校から髪も金髪に染めて小学生の頃とは真逆のイメージになったが、彼女の性格は変わっていないと時雨は思っている。
時雨は進路について香に訊ねた。
「香は文系と理系どうするの?」
「んー……私は時雨と同じクラスになりたいから、時雨に合わせるよ」
「ちゃんと真面目に考えた方がいいよ」
香は言葉を詰まらせて出した答えに、時雨は呆れてしまう。
自分を慕ってくれるのは嬉しいが、それでは香のためにならないと時雨は思う。
香は腕を組んで考えると、参考までに時雨の進路について訊ねた。
「私は文系や理系どころか将来の夢も定まっていないし、そういう時雨はどうなの?」
「私は……文系かな」
時雨も言葉を詰まらせると、得意科目は文系に寄っているので今のところは文系を選択するつもりでいる。
将来についてはまだ白紙の状態で、前世のような騎士と言う職業も一時期は考えていたが、該当するのは警察官や自衛官と言った職業になり、転生した時雨の運動神経や体力ではとても務まりそうにない。
時雨の回答を聞くと、香はそれに同調する。
「じゃあ、私も文系にするよ」
「もう……香は絵や工作が得意だから、芸術や技術職関連の道が良いと思うよ」
今日の似顔絵もそうであったが、香は昔から手先が器用で絵のコンクールも受賞した経歴がある。
「まあ、時間を掛けて進路は決めていくよ。それより、今度の休みに可愛い水着を選ぶ方が大切だからね」
香は話を切り替えてスマホで可愛らしい水着の頁を開くと、時雨に似合いそうな物を選んでいく。
(私も急がずにゆっくり決めるか)
香としばらく水着を選びながら、今度の休日について色々と話が盛り上がった。