第148話 この世界の魔法
朝食も終えて、魔法を解除する方法について時雨が提案を持ち掛ける。
「あまり期待できないけど、一つ思い浮かんだ事があるんだ」
「どんな方法?」
興味津々で加奈が問い掛けると、時雨はパソコンとスマホを起動させて説明に入る。
「この世界の魔法と呼べるネット検索とSNSで呼び掛けて見るのさ」
「あー……なるほどね」
時雨は疑問に思った事を調べたりするのに、ネット検索を利用して解決する事が多かった。
中にはデマ情報も拡散されているケースもあるので、全面的に信頼できない側面がある事も承知している。
「まあ、やってみる価値はあるかもしれないね」
「とりあえず、ネット検索からしてみるよ」
時雨はパソコンを操作すると、試しに検索画面で『魔法』、『解除』のキーワードを打ち込む。すると、画面には各種ゲームの攻略情報等が映し出されるだけで時雨達が知りたい情報は皆無だった。
「検索ワードを変えてみるよ」
今度は『魔法』、『ダークエルフ』、『手鏡』、『解除』を追加して再挑戦すると、やはりダークエルフのスキル一覧と言ったゲームの攻略情報等に行き当たった。
調べていく内にダークエルフのイラスト絵もあって、香は加奈と見比べて楽しんでいる。
「特徴的な部分は絵とそっくりだね」
「ふっふっふ、私は絵のダークエルフより気品と冷静さを兼ね備えているわよ」
ドヤ顔で自慢する加奈に対して、なんだかなぁと言う気持ちで時雨は耳を貸しながらパソコンの画面と向き合う。
やはり、違った角度で検索を試みても結果は変わらなかった。
「うーん、駄目だ。有力な手掛かりが見つからない」
「お疲れ。少し休憩するといいよ」
加奈は時雨に労いの言葉とコップに注いだ麦茶を手渡す。
時雨は一言お礼を言うと、喉の奥に冷たい麦茶を流し込んで気分を一転させる。
予想していた展開なだけに、あまりショックはなかった。
次はSNSで呼び掛ける方法だが、こちらもあまり期待はしていない。
ありのままを発信したとして、中二病をくすぐるネタ設定と勘違されて、まともに相手をされないのではと時雨は危惧している。
「僕が試しに呼び掛けるよ」
香は自分のスマホを取り出して、現状の様子と加奈の横顔を写真にしてSNSに呼び掛ける。
(さて、吉と出るか凶と出るか)
時雨は緊張しながらしばらく様子を見ていると、二人の人物から接触があった。
一人目は加奈の横顔を褒める内容で、全身も映してくれと懇願するものだった。
二人目は加奈のルックスを褒めた上で、解決の糸口を記してくれた。
加奈はそれを読み上げる。
「魔法の解除は昔から、運命の相手とキスをしてハッピーエンドを迎えるのが定石さ」
「……この方法も駄目みたいだね」
時雨が肩を落として残念そうにすると、ひょっとしたらと言う気持ちが芽生えたが、提案した方法は全滅。
「いやいや、運命の相手は時雨かもしれないからキスを……」
「昨日やったじゃないか」
時雨は恥ずかしながら呆れて突っ込むと、香が間に入って信じられないと言う表情を浮かべる。
「加奈!? 時雨ちゃんとキスしたって本当なの?」
「ふふっ、濃厚な味で病み付きになりそうだったよ」
意味深な言葉を吐いて舌をペロッと出すと、加奈は香をからかって反応を楽しんでいる。
「加奈だけずるいよ。僕も時雨ちゃんとキスしたい!?」
「……二人共遊んでないで真面目に頼むよ」
案の定、趣旨がズレて話が脱線する展開になるのも予想はしていた。
(大丈夫かなぁ……)
時雨の心配を他所に加奈と香にしばらく迫られると、先行きに不安を覚えた。