第146話 魔法の解除方法
「確認のために聞くけど、時間の経過で効力が切れるって事はないと考えていいのかな?」
「うーん……多分、戻らないね。この類の魔法の道具は使い捨て型の消耗品として作られるケースが多いから、時間の経過で自然と元に戻るかもって安易に考えていたのがまずかったわ」
時雨は魔法の分野は精通した知識もないので、魔力が備わっていたダークエルフの加奈に改めて現状を確認する。誤算だったのは手鏡が想像以上に精巧に作られていて、魔法の効力は半永久的に継続するかもしれないと推察する。
「それじゃあ……加奈はずっと、その姿のままなの?」
「最悪の場合、そうなるわね。両親や学校側も納得してくれるかなぁ」
香が心配そうな声で言うと、加奈は諦めムードで途方に暮れる。
手鏡を持ち込んだ時雨にも責任はあると感じているので、申し訳ない気持ちが時雨に芽生える。
「何か方法はないの?」
「考え付く限り、方法は二つあるわ」
香は指を二つ立てると、その方法について解説を始める。
一つ目は手鏡の持ち主から魔法を解除してもらう方法。
問題解決に一番確実ではあるが、持ち主だった売り子の女性は素性や行方も分からない。
もう一度、同じ場所を探したところで手掛かりはおそらく何も見つからないだろう。
二つ目は魔力を備えている魔法使いやエルフ族の助力を借りて魔法を解除してもらう方法。
残念ながら、この世界に魔法使いやエルフも存在しておらず、魔力を備えている人物はないに等しい。
香は雄弁に語って机を叩くと、結論を出す。
「つまりは戻れない。明日からはダークエルフの女子高生として自転車で登校する未来しかないのよ」
時雨と香は自転車を漕いでいるダークエルフの加奈を想像すると、間違いなく校門前で風紀委員の紅葉に呼び止められる姿を思い浮かべる。
「そんな姿で学校へ行ったら大騒ぎになるし、ご両親は卒倒するよ」
「美容整形したって設定で押し通せば……」
「いや、整形ってレベルを超えているよ」
無難に突っ込みを入れる時雨だが、見た目から種族まで変化しているのだから、どうしようもない。
下手をすれば、テレビの取材や国の研究機関やらが動いて一躍有名人になるかもしれない。
(これは参ったなぁ……)
時雨が腕を組んで考え込んでいると、時雨を含めて加奈と香のお腹が鳴る。
そういえば、朝食はまだ済ましていなかったのを思い出すと、加奈は明るい声でどんよりした気分を吹っ飛ばす。
「ははっ、お腹空いちゃったね。今は考えても仕方ないし、何か腹ごしらえしようよ」
「それなら、私が何か作るよ。加奈は香ちゃんと部屋にいてよ」
時雨は腰を上げて部屋を出ると、二人のために朝食をこしらえる事にした。