第144話 香の答えは
はだけた寝巻姿の時雨と加奈を香が凝視すると、思考が追い付かない様子だ。
「その女の人は誰?」
香は最も重要な質問を絞り出して、時雨に尋ねる。
「信じられないかもしれないけど、彼女は……」
「ワタシ、時雨ノ女ヨ」
時雨はありのままに起こった事を説明しようとすると、片言の日本語で加奈が割って入る。
外見は外国人の美女に差し支えないので、それっぽく振る舞うだけで説得力がある。
話をややこしくしようとする加奈に香は機敏に反応する。
「時雨ちゃんが、まさか外国の女性と付き合っていたなんて、今まで知らなかったよ。僕はお邪魔なら帰るね」
「いや、付き合っていないからね。加奈も悪ふざけはここまでだよ」
案の定、香は目の前の女性を加奈だと気付いていない。
まるで新たな真実を目の当たりにしてしまったような衝撃に打ちのめされて、声にいつもの元気がない。
そっと部屋の扉を閉めて退出しようとする香を加奈は引き止めて手招きする。
「私ノ膝ニ座リナサイ」
「お姉さんの膝に座って何するの?」
「イイカラ、早ク」
香は訝しげな目で片言の日本語で話す加奈に警戒心が芽生える。
加奈の傍には手鏡があるので、香を安心させるために膝に座らせて、手鏡の効力を実際に確かめてもらおうと香に使わせるためかもしれない。
香は時雨に助けを求めるように視線を投げ掛けると、時雨は軽く頷いて答えてみせた。
「じゃあ、遠慮なく……」
ゆっくり加奈の元に近付いて行くと、香が膝の上に座った瞬間に加奈は思い掛けない暴挙に出る。
慣れた具合で羽交い絞めにして、香の胸を揉んでみせた。
「やだ! 何するの」
「やっぱり発育良いわねぇ。前に更衣室で揉んだ時もそうだけど、元に戻ったら半分分けて欲しいわ」
「更衣室って……まさか、お姉さんは!」
どうやら、香も正体に気付いてくれたようだ。
時雨は二人を引き離すと、香は一呼吸置いて答えた。
「あなたは加奈のお姉さんだね! 加奈から情報を仕入れて、どうせ部屋のどこかで加奈は隠れているでしょ」
「いや、そうじゃなくて……」
時雨はとりあえず加奈の長耳をモフって黙らせると、手鏡を持って一から事情を説明した。