第14話 昼食
午前中の授業を無事に終えると、昼食には購買部で人気のカレーパンを買い求める列に香と並んでいた。
「あの絵は少し自信があったんだけどなぁ」
「そんなに落ち込まなくても大丈夫。人間、一つぐらい苦手な分野があるものだよ」
結局、時雨は似顔絵を提出したが、先生に指導されて後日修正して再提出する事になった。
列は順調に捌けていくと、時雨達もカレーパンを手に入れる事ができた。
他に菓子パンを買って、香は時雨の手を引くと、上階を指差してみせる。
「天気も良いし、せっかくだから屋上で食べない?」
「そうだね。行ってみようか」
屋上は昼食の時間には一般生徒達に解放されている。
高い場所が好きな時雨はたまに屋上へ出て、町の様子を眺めながら昼食を取るのは気晴らしには最高である。
二人は屋上にやって来ると、数名の生徒達が楽しそうに会話をしながら食事を楽しんでいた。
「あそこのベンチに座ろうか」
香は空いているベンチを見つけると、二人は並んでベンチに座る。
「今度の休みに時雨と水着を買いに行くけど、よく考えたら最近太って夏休みまでに痩せないといけないな」
「別にそんな事ないよ? 香は健康的で魅力的な女の子だよ」
「時雨は太らない体質だから、羨ましいわ」
女性として生活するようになって、女子達の話題に体重に関する悩みを多く聞いてきた。
時雨は特に体重を気にせず、適度な運動と食事を心がけていたので、体重を気にする女子達の気持ちはあまり分からなかった。
あとは香の言う通り、時雨は太らない体質も相まって肥満とは無縁だった。
「あっ、時雨じゃないの」
屋上の扉から時雨の名前を呼んだのは購買部で時雨達と同じくカレーパンを持って現れた凛であった。
「凛先輩、昨日はありがとうございました」
「時雨からもらったぬいぐるみは大切にしているわ。隣、いいかしら?」
「どうぞ」
凛は時雨の傍に座ると、にこやかな笑顔を見せる。
そんなやりとりを香は頰を膨らませて時雨の腕を組むと、自己紹介を始める。
「桐山先輩、初めまして。時雨の大親友の笹山香って言います」
「時雨のお友達ね。ふふっ、とても純粋で可愛らしいわ。よろしくね、笹山さん」
凛は香に手を差し伸べて握手を交わそうとすると、香は警戒心を強めて応じてみせる。
「そうだわ。今日、放課後に二人共時間は空いているかしら?」
「私は一応空いていますが、香はどうかな?」
「私も空いてるよ」
凛は二人の都合を確認すると、懐からチケットを差し出した。
よく見ると、チケットは学校の近くある商店街の福引き券であった。
「私はこの近くで買い物したりしているから、福引き券が溜まっていたのよ。よかったら、三人で商店街の福引きに挑戦してみない? 特賞は海辺が綺麗に見える事で有名な旅館宿泊券よ」
それを聞いた時雨と香は目を合わせると、夏休みの海は特賞が当たれば優雅に過ごせると考えた。
「是非お供させて下さい」
時雨がそう言うと、香も倣って後に続いた。