第138話 嘘つきな騎士様
「あまり意識はしていなかったけど、私は時雨に恋をしているかもしれない」
「また変な冗談を……」
時雨は赤面しながら加奈の冗談だと受け止める。
この手の話を加奈がする時は面白半分に茶化す傾向があるからだ。
「それより、元の姿に戻れるかどうか心配だよ」
「それは大丈夫だと思う。私の中に眠っていた魔力に手鏡が反応して一時的に前世の姿に戻しただけだろうから、明日になれば元に戻っているよ」
加奈の見解では手鏡は覗き込んだ者の前世を映し出す代物らしいが、対象者に魔力が備わっていれば姿形まで前世の姿にするらしい。
元々前世でも人間だった時雨は魔力に乏しく転生後は完全に失って備わっていないが、加奈の場合は前世がダークエルフだった影響で魔力に長けていて、人間に転生後も魔力は微力ながら継承していたようだ。
「魔力があると言っても、魔法を行使できる程もないけどね。この手鏡を作った奴は魔法に長けた魔法使いかエルフ族ぐらいだと思うけど、両者はこの世界に存在しないからねぇ。あと考えられるのは神様が悪戯で時雨に渡したとかってぐらいかな」
「そんなまさか……どうしてそんな物を私に」
時雨は手鏡を売りつけようとした売り子の女性を思い出すと、結局そんな人は見当たらず手鏡は持ち帰ってしまった。
(神様ねぇ……)
仮に神様の仕業なら、どうして時雨にこんな手鏡を渡したのだろうか。
「気まぐれじゃないの? まあ、本気で取り返すつもりなら、とっくに回収しているよ。それより、この状態を楽しまないと損よ」
真意は分からないが、加奈にとって今は絶好の機会と言わんばかりにテンションが上がっている。
「楽しむのは宿題を終わらせてからだよ」
とりあえず加奈を机に座らせると、宿題に取り掛かろうとする。
傍から見れば、女子高生が妖艶な美女の面倒を見る図になっている。
「そんな口うるさい両親の常套句はいいから、時雨は今の私に何して欲しい?」
「宿題。お姉ちゃんの服を借りてくるから……」
時雨は加奈が着られそうな服を調達するために部屋を出ようとすると、背後から加奈が飛び掛かって時雨を押し倒す。
「か……加奈!? 急に何を」
「嘘つきな騎士様にはお仕置きが必要だねぇ。とりあえず、その唇を奪っておこう」
加奈は時雨に跨ると、舌をペロリと出してみせる。
ジタバタ抵抗するも虚しく、時雨の顔に生温かい感触が伝わる。
最初は頬に、そして唇が合わさると加奈の様子は一変する。
目を見開いたかと思うと、直後にとろんとした目になって甘えた声を出す。
「何よこれ……オスとメスの良い味がする」
加奈は再びキスを試みようとすると、自室の扉の開く音がする。
「時雨と加奈ちゃん、お風呂沸いたから先に入ると……」
どうやら柚子が気を利かせて、時雨達にお風呂が沸いたのを知らせに来たらしい。
そこで目にしたのは時雨が見知らぬ女性に押し倒されている姿だった。