第137話 ダークエルフの色香
「本当に加奈なの?」
時雨は信じられない様子で、もしかしたら新手の強盗かもしれないと脳裏を過った。
警戒感を強める時雨に対して、褐色肌の女性は自身が加奈である証明をしてみせる。
「山下加奈、十六歳。才色兼備の美少女で、これと言った趣味はないけど、現在イケメンな彼氏募集中。お金持ちで私に尽くしてくれるなら尚良。女の子も条件次第では可」
銀色の短髪を掻き分けて、クールな表情を覗かせる女性に見えたが、口を開いたら中学からの付き合いで、これは加奈だなと確信する。
「あー……その残念な感じは加奈だね。でも、どうしてそんな姿に?」
「ちょっと、残念って何よ。全く……時雨の手荷物に手鏡があったから、少し拝借して乱れた髪型を整えようとしたら、こんな姿になったのよ」
髪型どころか身に付けている衣服もぱっつんぱっつんで今の体格と高身長の加奈にはサイズが合っていない。
目のやり場に困った時雨は本能的に加奈から視線を逸らすと、それに気付いた加奈は面白可笑しく誘惑する。
「ふふっ、少し体が熱くなってきたから服を脱いじゃおうかなぁ」
「それなら……部屋の窓を開けて風通しを良くするよ」
時雨はお茶菓子を机に置いて窓際まで移動すると、それを阻むように背後から加奈が密着する。
背中に弾力のある柔らかい感触が伝わると、それが加奈の胸であるのは安易に想像ができた。
「夜風は冷たいから駄目。服を脱がすのを手伝ってくれないかしら?」
「……子供じゃないんだから、服ぐらい自分で脱げるでしょ」
窓ガラスから反射する加奈を見ると、色香漂うダークエルフの雰囲気に呑まれそうになる。
精一杯の抵抗の言葉を口にする時雨に、加奈はさらに畳み掛ける。
「人間の年齢で換算すると、まだ小学生ぐらいの子供よ。時雨のようなお姉さんに脱がして欲しいなぁ」
そんな小学生がいてたまるかと時雨は心の中で叫ぶ。
エルフやダークエルフは人間と比べて長寿なので、理屈ではそうなのかもしれない。
明らかに時雨の反応を楽しんでいる。
「脱がしてくれた後は時雨の好きにしてもいいんだよ? 時雨にはその資格もあるし、私は甘んじて受け入れるよ」
「前世の事はもう話が済んでいるし、私は加奈に過去の贖罪を求めるつもりもないよ。それに体が熱いなら風邪かもしれないし、救急箱から体温計や風邪薬を用意するよ」
時雨は今日の神社で起きた一連の出来事を反省し、加奈に主導権を握らせず突き放す。
本当に体が熱いのなら、姿が変わった影響かもしれない。
自室の扉に手を掛けて台所にある救急箱を取りに出ようとすると、今度は正面に回って時雨の前に立ちはだかる。
「待って!? たしかに体は熱いの。熱いけど……」
「じゃあ、私のベッドで横になっていなよ。本当に風邪かもしれないし、手鏡が原因なら私にも責任の一端はあるからね」
「これは風邪とかじゃないの。その……時雨の傍にいると体が疼いてしまうのよ。その証拠に、ほらここを触ってみてよ」
加奈は強引に時雨の手首を掴むと、そのまま自らの胸に押し当てる。
激しく心臓が高鳴るのを感じると、加奈はその正体について語り始める。