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第136話 見知らぬ褐色肌の女性

 昼食のイタリア料理に舌鼓を打つと、その後は香の希望でブティックを見て回った。

 改めて見ると、気に入った装飾品を選んでいる香の姿はギャルと呼ぶに相応しい女子高生で、弟だったシャインの面影はどこにも見当たらない。


「時雨ちゃん、これはどうかな?」

「ああ、明るい感じがして似合っているよ」


 この手の買い物も日常茶飯事だったので、すっかり女の子として染まっている。


「僕もこれは素敵だと思ったから、今度時雨ちゃんと出かける時はこれを着て行くよ」


 軽い足取りで会計を済ませると、時雨も香と一緒に買い物を楽しんだ。

 日も暮れて電車に揺られて二人は帰宅すると、香と別れて時雨は玄関の扉を潜った。


「ただいま」


 時雨は靴を脱ぐと、柚子が出迎えてくれた。


「おかえり、時雨に可愛いお客さんだよ」

「客?」


 時雨はお土産袋を柚子に手渡すと、玄関先には見覚えのある靴が一足並べられていた。

 自室に待たせていると言うことで、時雨は足早になって自室の扉を開く。


「ああ、やっぱり加奈か」


 目の前には座布団の上に姿勢を正して正座している加奈の姿があった。

 時雨はとりあえず手荷物を床に置くと、扉を閉めて用件を訊ねる。


「こんな時間にどうかしたの?」

「時雨……実はあなたにとても大切なお願いがあるの」


 加奈は改まって頭を床に擦り付けて土下座する。


「ちょっと!? いきなり土下座はよしてくれよ」


 時雨は加奈の様子に困惑しながら、とりあえず顔を上げさせて事情を伺う。


「前世の事なら気にしなくていいよ。凛先輩とも和解できたからもうそれで……」

「宿題を写させてください!」


 思い付く限りで心当たりがあるのは前世の件だと思った時雨は諭すように話しかけると、途中で言葉を詰まらせる。

 加奈は鞄から学校の宿題に出されていたプリントの束とノートを取り出すと、ほとんど手を付けておらず白紙の状態だった。


「ゴールデンウィークはあと二日間あるし、自力でやりなよ」

「そんな殺生な!」


 時雨は溜息を漏らして呆れてしまうと、色々心配して言葉を選んだのに損をしたような気分だ。

 そういえば、中学生の頃にも夏休みの宿題をギリギリになって写させてくれと懇願された事があった。あの時は香も一緒になって、見兼ねた時雨は二人の宿題を手伝う形で協力した。


「騎士なら、困った人を助けるのが務めでしょう?」

「時には心を鬼にして試練を与えるのも騎士の務めだと思うよ」


 加奈は騎士を盾にして取り繕うとするが、時雨は付け入る隙を与えない。

 しゅんとなる加奈に対して、これでいいんだと言い聞かせる。


「それなら……分かったわよ。時雨のために私の身体を捧げる」


 加奈はゆっくり立ち上がると、その場で衣服を脱ぎ始める。


「ちょっ……ストップ!」

「止めないでよ。私は時雨のためにやっているんだから」


 いや、宿題のためだろと突っ込みたいところだが、時雨の制止を振り切って衣服を脱ぎ捨てていく。

 これには参った時雨は条件付きで折れた。


「分かったよ。その代わり、宿題はあくまで自分の力で解かないと駄目だから、解けない問題は私も一緒に考える」

「さっすが時雨。この恩は絶対に忘れないよ」


 加奈は思わず時雨に感謝を込めて抱き付くと、バランスを崩して手荷物が置いてあった袋の中から手鏡が剥き出しになった。

 とりあえず加奈を机に座らせると、時雨は自室の扉を出て台所からお茶菓子を用意する。


(甘いなぁ……)


 結果はどうあれ、加奈の望みを叶える事になった時点で非情になりきれなかったのは自身の甘さが招いたものだろう。

 適当なお茶菓子を選んで自室に戻ると、目の前で信じられない光景が目に飛び込んだ。

 加奈の姿はどこにもなく、手鏡を手にした見知らぬ褐色肌の女性がいたからだ。


「あの……どちら様ですか?」

「私は加奈! 山下加奈だよ」


 褐色肌の女性は加奈の名前を挙げると、特徴的な尖った長耳があるのに気付いて彼女がダークエルフであるのは明白だった。

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