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第135話 香の相談

 昼食に並木通りのカフェテラスを見つけると、明るい陽射しと開放感のある景色が広がっていた。


「なかなか良い雰囲気だね」

「芸能人もよく訪れて話題になっていたから、一度立ち寄ってみたかったの」


 時雨は周囲を見渡すと、おしゃれなインテリアも相まって人気があるのは頷ける。

 メニューも豊富に揃っており、二人はシェフ自慢のイタリア料理のコースを注文する。


「あのさ……時雨ちゃん」


 香は何か言いたそうに、もじもじする。


「どうしたの? トイレなら、そこの右に曲がったところにあったよ」

「そうじゃないの。実は加奈について少し相談があるの」

「加奈がどうかしたの?」


 時雨は親切心にトイレの場所を教えたが、どうやら違ったらしい。

 加奈の事で相談とあるが、色々心当たりがあるので見当もつかない。


「時雨ちゃんは加奈とボーリング場で賭け勝負したのを覚えている?」

「ああ、アレか」


 波乱のある勝負だったが、加奈が勝利を収めて時雨にキスする予定だったが、間に香が入って時雨の身代わりに加奈とキスをした事を鮮明に思い出す。


「まあ、加奈も場を盛り上げようとしただけだから、あまり気にしない方がいいよ」


 香にとって加奈とキスするのは不本意だった筈だ。

 加奈も遊び半分で場を盛り上げようとしただけだろうし、二人をからかう口実を作って楽しむ算段だったのだろう。


「僕が勢い余って加奈とキスした時、ちょっとした違和感があったの」

「違和感?」

「うん、ほんの一瞬だったけど加奈の雰囲気と言うか姿が変わったような気がしたの。褐色肌で妖艶なお姉さんみたいな感じだった」

「へぇ……」


 それは間違いなく加奈の前世の姿だろう。

 その事を加奈にも話したが、「キスの余韻に浸って幻覚を見たのよ」とけんもほろろな答えが返ってきたらしい。


「だからさ。時雨ちゃんにもキスすれば加奈みたいに妖艶になると思ったの。僕の仮説が正しいかどうか実験に付き合ってよ」

「いや、ならないからね」


 時雨が間髪言わずに突っ込むと、香は「ほんの少しだけ」と食い下がる。


「それに……私の左頬や耳たぶに甘噛みした時点で何も変化はなかったでしょう?」

「そんな事ないよ。従順でエッチな感じになっていたよ」


 香はにこやかに答えると、時雨は恥ずかしさが込み上がって後悔する。


(余計な事を言ってしまった……)


 時雨は思わず席を立つ。


「時雨ちゃん、どこ行くの?」

「そこの右に曲がったトイレ」


 先程、香に教えたトイレの場所を自ら赴いて反省してこようと時雨は思った。

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