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第133話 手鏡

 スカイタワーを後にすると、オフィス街を抜けて人混みになっている公園を訪れていた。


「わぁ、お祭りみたい」


 香が楽しそうにはしゃいでいると、どうやらフリーマーケットの開催をしているらしく、露店が数多く出店している。

 衣類や電化製品等のような雑貨類が数多く並べられ、盛況に賑わっている。


「少し覗いて行こうか」

「うん、何か面白そうな物とかないかなぁ」


 香は時雨の誘いに乗ると、周囲を見渡しながら物色を始める。

 時雨も売り子の掛け声に反応しながら、並べられている商品を目で追っていく。


(これはいいかも)


 時雨は可愛らしい動物が刺繍されたハンカチやタオルを手にすると、香の喜ぶ姿が目に浮かびそうだ。

 猫の刺繍が入ったハンカチを一枚包んでもらうと、ふと凛や紅葉の顔浮かんだ。

 私も忘れないでよと後から加奈の顔も思い浮かぶと、三人にもそれぞれプレゼントしようと追加で包んでもらった。


(あれ? シャインがいない)


 目に見える範囲でいたつもりだが、人混みも徐々に増えていつの間にか香とはぐれてしまった。

 こんな時に便利なスマホで連絡を取り合うと、香は呑気な声で電話に対応する。


「私は公園の中央にある時計台の前にいるよ。その近くで、たこ焼き屋の屋台があったから、二人分のたこ焼きを買っちゃった」

「あー、あそこね。すぐ向かうよ」


 公園の中央には時計台が設置されて、どうやらそこに香はいるようだ。

 小腹も空いてきたので我慢できずに、たこ焼きを買ったのだろう。

 時雨は時計台を目指して歩き出すと、人混みを掻き分けて進んで行く。

 すると、売り子の女性が時雨に突然話しかけてきた。


「そこのお嬢さん、こちらの手鏡は如何ですか?」


 生真面目な性格の時雨は律儀に立ち止まると、売り子の女性に振り向く。


「すみません、少し急いでいるので……」


 時雨は申し訳なさそうに言うと、その場から立ち去ろうとする。

 それを阻むように売り子の女性は手鏡を持って、お構いなしにセールストークを展開していく。


「この手鏡は普通の手鏡ではありません! なんと、人の本質を映し出す魔法の鏡。試しに騙されたと思って覗いて見て下さい」

「はぁ……」


 売り子の女性にペースを握られると、時雨は渋々手鏡を受け取って言われた通りに従う。

 手鏡をよく見ると、随分と年代物のように見受けられる。

 別段変わった様子もなく、鏡を覗いて見ても自身の顔が映し出されているだけだ。


(普通の鏡だな)


 時雨はこれ以上付き合いきれないとばかりに、売り子の女性に手鏡を返却しようとすると、先程まで目の前にいた売り子の女性は姿を消してどこにも見当たらない。

 仕方がないので近くで売り子をしている人に事情を説明すると、そんな売り子の女性はいないと言われて手鏡を突き返された。

 途方に暮れて、手鏡に何か手掛かりがあるかもしれないと再び鏡を覗き込んだりして調べると、鏡面が薄っすら変化していくのが分かった。

 映し出されている時雨の顔は次第に霧が掛かったようにぼやけると、薄気味悪い感じだ。

 その場で捨てたいところだが、湧き出る好奇心が打ち勝ってしばらくしていると霧は徐々に晴れていく。

 再び自身の顔が映し出されるだろうと思っていると、結果は半分正解であった。


(なっ! この顔は)


 鏡には好青年の顔がハッキリと映し出されると、それは時雨の前世の姿だった。

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