第131話 展望台
時雨を抱き込むようにして、香は時雨の反応を楽しむかのように耳元で囁く。
「時雨ちゃんはどこが敏感かなぁ?」
甘い吐息が耳をかすめると、耳を通じて温かい感触が伝わる。
今までにない感触に時雨は思わず意識が高ぶって、どうにかなってしまいそうだ。
「な……何を? くっ、駄目だよ」
口に出して抗おうとするが、身体は快楽に溺れてジレンマが時雨を襲う。
横目で何をされているのか確かめると、香は息を荒くして時雨の耳たぶを甘噛みしていた。
境内の掃除を始めようとしていた巫女達の声が聞こえてくるが、そんなのはお構いなしに続行していく。
時雨は耐え切れず、その場にへたり込んでしまうと快楽から解放されて放心状態になる。
「ごちそうさま。時雨ちゃん、凄く可愛かったよ」
香は舌をペロリと出して満足そうな笑みを浮かべる。
しばらく気持ちを落ち着かせて軽く息を整えると、時雨は耳たぶを手で押さえて逃げるように境内の階段を下って行く。
「あっ、待ってよ時雨ちゃん」
巫女達も二人の様子に気付いて遠目から窺うようにしていると、香も時雨の後を追いかけて神社を後にした。
時雨は頬を膨らませてご機嫌斜めになると、スカイタワーのエントランスで香にそれとなく注意する。
「公共の場で、あんな行為をするなんて誰かに見られたらどうするの!?」
「だって、したかったんだもん」
全く反省しない様子は、まるで小さな子供のようだ。
「でも、時雨ちゃんも途中から少しその気になってたじゃん」
「それは気持ち良かったから……じゃなくて! 何を言わせるの」
本音がポロリと出ると、時雨は首を振ってみせるが説得力は皆無だ。
「とにかく、あんな真似は禁止! どこであんな事を覚えたのやら」
時雨は自身の不甲斐なさに呆れてしまうと、この話はこれでお終いにしようとする。
「加奈が教えてくれたよ。他には首とか……」
「あー、ストップ! それ以上は何も言わなくてよろしい」
やはり元凶は加奈だったかと、本当にロクな事を教えないなと頭を悩ませる。
気を取り直して、二人はエントランスで展望台へ上るためのチケットを購入すると、展望台に直通のエレベーターへ乗り込む。
地方からの団体客が数多く見られ、エレベーターは足場を埋め尽くす程だ。
世界一の高さを誇る電波塔ともなると、昇降行程も最長で到着には数十秒もかかった。
エレベーターが開くと、目の前には絶景と呼べる街並みが映し出されていた。
凛と複合商業施設のシースルーエレベーターで見た景色も素晴らしかったが、眼下にはまるで精巧な模型が並べられているような感じだ。
「わぁ、素敵な眺めだね」
香が時雨の腕を組みながら呟くと、時雨も頷いて答えた。
「うん、思い切って来てみたけど正解だったね。またどこかの世界に転生したらこんな眺めは二度と見られないかも」
「私はまた転生しても時雨ちゃんと一緒の景色を見たいなぁ。それで一杯思い出を作っていきたい」
また記憶を継承して転生できる保証はないが、時雨もそれには同意見だ。
当たり前の日常を前世の皆と謳歌できる今の世界は不思議であり、楽しい時間を過ごせている。
「あっち側を見てみようよ!」
香は立っている反対側を指差すと、仲睦まじい様子で展望台を移動して回る。