第130話 おみくじ
賽銭箱にお金を入れると、二人は手を合わせて祈願する。
(皆が幸せでありますように……)
些細な願い事だが、今の当たり前のような時間を大切にしたい。
時雨は参拝を済ませると、隣にいる香はまだ目を瞑って真剣に祈願している。
しばらくすると、香も無事に済ませて時雨と腕を組む。
「熱心に何をお願いしたの?」
時雨は興味本位に訊ねると、香は周囲に誰もいない事を確認して顔を赤く染めて答える。
「お兄ちゃんとずっと一緒にいられますようにってお願いした。将来、お兄ちゃんが独身になりそうなら今度は僕が結婚して養ってあげるね」
「私はいなくなったりしないから大丈夫だよ。それに私より自分の将来を考えないと、今度の中間テストとか大丈夫なの?」
「あう……それは頑張るからいいの!」
香は罰が悪くなると、これは中間テストの面倒を見ないといけないなと時雨は思う。
高校生活までは一緒にいられると思うが、卒業後は進学や就職次第で共有できる時間は限られてくるだろう。
結婚に至っては恋愛対象が女性なので、この辺はどうなるか分からない。
「あっ!? あそこでおみくじ引こうよ」
境内を散策していると、香が古びた木造建築を指差して御朱印やおみぐじが並べられていた。
「運試しに引いていこうか」
「うん、大吉引いて中間テストを乗り切るぞ」
そこは運に頼らず勉強して乗り切って欲しいなと時雨は内心思うと、二人はおみくじをそれぞれ引いていく。
時雨はおみくじの中身を確認すると、結果は吉だった。
その他に金運は貯蓄に励めば思わぬ出費をしない、恋愛運は堅調な推移を示すので常日頃から自然体を保てとある。
(自然体ねぇ……)
一応、参考程度に心掛けようと時雨は思う。
香もおみくじの結果を確認すると、第一声と共にその場でジャンプしてみせた。
「やったぁ! 大吉だよ」
「おお、凄いね」
「しかも恋愛運は想い人と愛を育めば成就する可能性大だよ。試しに時雨ちゃんと愛を育もうかなぁ?」
境内に数名の巫女が掃除用具を持って現れると、香はお兄ちゃんから時雨ちゃんと呼び名を変えて嬉しそうに時雨の懐へ飛び込む。
「こ……こら、からかうんじゃないよ」
「ふふっ、もっとからかっちゃおうかなぁ?」
香は上目遣いで時雨を見ると、意地悪そうな笑みを浮かべる。
その姿がとても大人びた様子で、時雨は心臓の高鳴りと共に生唾を飲み込んでしまった。