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第13話 美術

 一限目から美術の授業で美術室に移動すると、二人一組になって似顔絵を描く事になった。


(絵は苦手なんだよな)


 時雨にとって美術は王族や貴族が好んで収集する物であると認識していた。

 凛も前世では高名な画家の絵を部屋に飾っていたぐらいなので、騎士であった時雨には縁がなかった。


「時雨、私と一緒に組もう」

「うん」


 香は時雨を誘うと、それに応じて互いにスケッチブックを片手に取る。

 香をじっくり眺めながら唸っていると、香はそれを可笑しそうに笑った。


「そんなに肩に力を込めなくても大丈夫だよ。時雨が思い描いたように描けばいいと思うよ」

「いや……昔から、この手の作業は苦手だよ。香も知っているでしょ? 一時期、私のあだ名が画伯って呼ばれてたのを」


 小学生の頃、課外授業で風景画を描く事になったのだが、その出来上がりに先生からとても独創的で個性的だねと評価されて、同級生からはしばらく画伯と呼ばれてしまっていた。

 あの時の風景画は時雨にとって苦い思い出なので、家の押し入れに閉まって封印してしまった。

 そんな事もあって、親友の似顔絵は何としてもまともに仕上げないといけないと重圧が圧し掛かっていた。


「時雨の絵は私好きだけどなぁ。見本になるような作品より、時雨のようなちょっと斜め上の作品は味があると思うよ」

「それって褒めてないでしょ」

「ふふっ……ほらほら、私も時雨を可愛く描くから、時雨も頑張って描こう」


 時雨は頬を膨らませると、上手くはぐらかされてしまった。

 二人はしばらく集中して絵を完成させていくと、周りの生徒達は完成した絵を見せ合って感想を述べ始めている。

 時雨は悪戦苦闘しながら描き続けると、香もどうやら描き終わったようだ。


「できた。こんな感じだけど、どうかな?」


 香はスケッチブックを時雨に見せると、特徴的な部分を押さえて上手に描かれている。

 若干、大人びた表情に美化したように見えるが、素人目にも文句がない出来だと言える。


「香の絵はマジでプロだろ。写真に写したみたい」

「ホントだ。香は絵の才能があるね」


 生徒達も香の描いた絵を覗くと、黄色い声が張り上がって高評価を得る事ができた。

 時雨も筆を止めると、やっとの思いで完成させる。


「できたよ。あまり自信がないけど……笑わないでね」

「笑わないよ。どれどれ、見せてごらん」


 香は時雨のスケッチブックを受け取ると、そこに描かれていたのは香とはかけ離れた物体Xだった。

 良く言えば、高名な画家が描いた独創的な抽象画。悪く言えば、センスの欠片もない落書き。

 これにはどう評価していいのか言葉を選びながら、香は一言。


「これは……渾身の作だと思うよ。畏敬を込めて時雨画伯と呼ばせてもらうわ」


 生徒達もこれには同意して、しばらく『時雨画伯』と不名誉なあだ名で呼ばれる事になった。

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