第126話 撮影開始
時雨が予想していた展開とは違って、すぐに撮影は開始されようとしていた。
「あの……」
「ほら、そんな困った顔しないで撮ろう」
どんな言葉を掛けていいか悩んでいると、先程の様子とは一変して凛は時雨の手を引いてみせた。
凛が時雨をリードすると、鞘から剣を抜いて構え背後にいる姫を守ろうとする姿を一枚、背中合わせになって仲睦まじい姿を一枚写真に収めていく。
「始まってるね」
その様子を後から遅れて撮影室に入って来た加奈が不安そうに眺めていると、時雨と目が合ってこの状況をどうしたらいいか目で訴える。
「まあ自分で蒔いた種だからなぁ」
最終的に判断するのは当人達が決める事だ。
普通なら身を引いて諦めるのだろうが、凛は負けず嫌いな性格であるのはサウナの件で判明したし、前世で二人は運命的な死を迎えた関係でもある。
運命の赤い糸がこの世に存在するのなら、時雨の場合は多方面の女性に複雑怪奇な赤い糸を伸ばして切れ難い糸が出来上がっているだろう。
「時雨が女垂らしの性格ならマジでハーレム一直線だな。あれで真面目な性格だからある意味、性質が悪い」
時雨と凛は次々とポーズを変えて撮影に臨んでいると、途中で紅葉と交代して撮影を続行する。
凛は一息入れて椅子に腰掛けると、二人の様子を見ながら加奈に話しかける。
「恋愛下手な時雨が自分から進んでキスまでするとは思わなかったな」
「やっぱり怒ってますか?」
「むしろ逆かな。時雨も元は男だし、あの性格からして清水の舞台から飛び降りるぐらいの覚悟があったんだと思う。紅葉から詳しく聞いたけど、二人はまだ友達関係から始めたようだし、私にもまだチャンスはある。時雨をその気にさせるぐらいのいい女になりたいって決意が固まったわ」
やはり転んでもタダでは起きない性格の持ち主だと加奈は思う。
伊達に一国のお姫様を務めていただけはあるなと改めて痛感する。
凛は椅子から立ち上がると、今度は加奈の手を引いて撮影に臨む。
「それに加奈ちゃんも時雨は好きなんでしょ?」
「ははっ、私は凛先輩が想像するような事はありませんよ。時雨はからかい甲斐があって面白い反応をする友達ってだけですよ」
「本当?」
お互いにポーズを取りながら写真を収めていくと、凛は時雨について訊ねる。
加奈は凛の意図を汲み取ると、それはないと言わんばかりに笑いながら答えてみせた。
「ダークエルフって種族は人前で本心を語らない節があるからね」
「私ははみ出し者のダークエルフなんで型には嵌まりませんよ」
「ふふっ、そう言う事にしておきましょうか」
何かを悟った凛はそれ以上追求する事なく、コスプレ衣装の撮影を存分に楽しむ。
時雨や香と違って優等生の凛はどうも勝手が違う。
下手をしたら、自身の心を丸裸にされてしまうのではと加奈は思う。
最後は四人揃って自由なポーズを取ったりして、各々前世の近い姿に満足しながら撮影を終えた。