第124話 立場逆転
時雨達はスタッフに個室へ案内されると、衣装の着こなしを手伝ってもらい、化粧台に設置されている鏡面の前に座ってメイクを施してもらう。
時雨が選んだコスプレ衣装は紅葉と同じく騎士鎧一式だった。
十数年ぶりに騎士鎧の姿になると、質感や重量感は本物と比べて物足りない感じはするが、コスプレ衣装として考えれば軽快な動作も可能で機能性に優れている。
(この感じ……懐かしいな)
腰に下げる剣は観賞用のレプリカを用意してもらい、模擬刀ではあるが見た目は本物と遜色ない出来栄えである。
時雨は久々の騎士鎧姿に興奮しながら個室から出ると、丁度そこに加奈も着替えを終えて姿を現す。
「予想はしてたけど、時雨はやっぱり騎士か」
「加奈のコスプレ……ダークエルフか」
加奈は長耳のカチューシャを頭に付けて、黒のジャケットにブーツを着込んでいる。
メイクも日焼けした小麦色の肌褐色になっているので、ダークエルフであるのはすぐに察しがついた。
お互いにまじまじとコスプレ姿を見ると、特に気恥ずかしさは感じられず、むしろあるべき姿に戻ったような気分だ。
「うーん、歴戦の女騎士って言うより、騎士鎧に着せられている感があるね」
加奈は時雨の騎士鎧姿の感想を述べると、たしかに凛や紅葉と比べて体格は小柄なので騎士として威厳は皆無だ。
それでも、騎士鎧に身を包んだ姿になると、自然に背筋が伸びて気持ちが引き締まる。
「加奈もダークエルフって言うより、夏休みに田舎で過ごして日焼けした女子高生って感じだよ」
ダークエルフに扮しているのは分かるが、体格は時雨と変わらず小柄であるために妖艶なダークエルフには程遠い。
「お互い、元の姿に近付いている筈なんだけどね」
「まあ……足りない部分は仕方ないよ」
加奈は自身の胸を軽く揉むと、溜息をついてしまう。
前世の身体とはどうしても勝手が違う訳だし、今は割り切るしかないと時雨は思う。
時雨が加奈を慰めると、凛と紅葉も着替えを終えて個室から姿を現す。
凛は淡い水色のドレス姿に王冠を頭に乗せて、お姫様のコスプレ衣装に身を包んでいる。
紅葉は時雨と同じく騎士なのだが、体格に恵まれて銀の長髪を掻き分ける凛々しい姿は歴戦の女騎士に相応しい姿と言える。
凛は時雨の姿が目に入ると、愛でるようにして頭を撫でる。
「あらあら、可愛らしい女騎士様ね」
「可愛らしいは余計ですよ。これでも立派な騎士です」
時雨は不満気な顔をして頬を膨らませる。
そんな時雨に凛は両手を広げると、時雨の身体は仰向けになり宙を浮くような感覚に陥る。
一瞬、何が起こったのか分からなかったが、首を動かして辺りを見回すと凛にお姫様抱っこをされていた。
「騎士様、機嫌を直して下さいませ」
「ちょっ……何をされているんですか!?」
「ふふっ、一国の姫君にお姫様抱っこされる騎士様の感想を是非とも聞きたいわ」
華奢な時雨の身体をゆっくり下ろすと、時雨は恥ずかしそうな仕草を取る。
本来なら逆の立場でやる事だが、これではどちらが姫君で騎士なのか分からない。
(こうなったら、私も……)
時雨も凛をお姫様抱っこしようと試みるが、華奢な時雨の身体で一回り大きい凛を持ち上げるのは無理だった。