第123話 コスプレ衣装②
時雨はタブレットに必要な採寸を入力すると、背後から視線を感じた。
「おお……時雨はやっぱりウエスト細いな」
「ちょっと! 勝手に覗かないでよ」
「別に減るもんじゃないし、よいではないか、よいではないか」
まるで時代劇の悪代官みたいな台詞を吐いて加奈が時雨のスリーサイズを覗くと、時雨は咄嗟に身を丸くしてタブレットを隠した。
時雨の女性らしい反応に加奈は味を占めて、自身のタブレットを見せつける。
「これが加奈様の個人情報だよ」
「別に……興味ないし」
「ふーん、本当かなぁ?」
数字がチラッと視界に入ると、時雨は顔を赤く染めてしまう。
自分以外で女性のスリーサイズを耳にすると、勝手に想像が膨らんでしまう。
多分、前世で男だった頃の習性が色濃く残っているせいであろう。
二人がそんなやり取りをしていると、凛も便乗して意地悪な笑みを浮かべて自身のタブレットを見せつける。
「私の個人情報はこんな感じよ」
「凛先輩まで何してるんですか!? そのタブレットを引っ込めて下さい」
時雨は目のやり場に困って慌てながら身構えてしまう。
「ふふっ、可愛い反応をするわね。やっぱり騎士道に反するのかしら」
「当たり前ですよ。一応、私は男だったんですからね」
時雨は二人に背を向けると、付き合い切れないと言わんばかりにタブレットの入力を続ける。
そんな時雨を余所に加奈と凛は互いのタブレットを覗いて時雨に聞こえる声で喋り出す。
「凛先輩、意外とバスト大きいですね。香より少し小さいぐらいだ」
「あら、そうなの。加奈ちゃんも時雨に負けないぐらいウエスト細くて羨ましいわ」
具体的な会話が耳に入ると、もうセクハラなのではと思いたくなるぐらいだ。
しばらくその状態が続くと、紅葉がタブレットの入力と衣装も選び終えていた。
「私はこの騎士鎧一式にするよ」
タブレットに映し出されている騎士鎧一式よりも、加奈と凛は紅葉のスリーサイズに目が行ってしまう。
「うわぁ……香より大きい。これは理想の女騎士様が誕生する予感」
「全国大会直前で身体検査した時に比べて、さらに身体が引き締まっているね」
加奈が大袈裟に言うと、凛も紅葉の採寸をチェックして褒めちぎる。
紅葉の個人情報まで耳に入って来ると、時雨はチラッと振り返って確かめてしまう。
「鍛錬は欠かさず継続しているからな。それと時雨も今は女子なのだから、遠慮する事はないぞ」
「でも……」
「元上官として言わせてもらえば、君の場合は騎士道に囚われ過ぎて損をしているぞ。少なくとも私と君は友達関係なのだから気兼ねなく何でも話に乗るぞ」
紅葉の申し出は嬉しいのだが、外野の加奈が煽っていく。
「そーだ、そーだ。騎士道を盾にするな、ムッツリスケベ」
香に続いて加奈にまでムッツリ呼ばわりされるのは心外だが、凛も可笑しそうに笑って納得してしまう。
「……もう! 早く衣装を決めますよ」
時雨は罰が悪そうにタブレットを操作していくと、全員衣装を決めて準備を整える。