第122話 コスプレ衣装
昼食を終えて、加奈は自分のスマホを皆に見せて提案を持ち掛ける。
「これからここで服を見に行きませんか?」
女子の服選びはほぼ長丁場になるのが当たり前なので、正直言うとあまり気乗りはしなかったが、折角この場を見繕ってくれた加奈の計らいに応えるため誘いに乗る事にする。
「私は構わないが、凛はどうだ?」
「ええ、服は私も見たいと思っていたから賛成よ」
紅葉と凛もあっさり賛同すると、加奈の提案はすんなり通った。
(普通の女子高生らしい買い物の展開だな)
この手の買い物は香とよく付き合っていたが、よく考えると生き別れた弟と知らずに幼馴染の女の子として接してきた。
凛や紅葉と違って、香と触れる機会は何度もあったが、あの不思議な感覚は全くなかったのでお互いの正体が分からなかった。
加奈の野次馬根性のおかげで偶然の産物であるが、兄弟に巡り会えたのは結果的によかったと思う。
加奈は話が決まったと言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべる。
「じゃあ、電車に乗り継いで早速向かいましょう」
時雨も夏服用に何着か欲しいと思っていたので、気に入った服があれば買いたい。
それに凛が興味の示す服がどんな感じなのか気になるし、それを試着した時の姿を想像してしまう。紅葉も同様に制服姿しか拝見した事がなかったので、彼女はどんな趣味の服が好みなのだろうか。
時雨達は加奈が案内する店まで電車を乗り継いで付いて行くことにすると、電気街で有名な駅で下車する。
柚子の趣味であるコスプレ衣装を揃えるために連れられたり、この世界でインドアな趣味に目覚めた時雨もたまに訪れたりしている。
この時点で時雨は加奈がどこに連れて行くのか察しがついてしまった。
「加奈、もしかして服を見たいってコスプレ衣装?」
「ええ、正解。私は嘘をついていないわよ」
たしかにそうなのだが、果たして凛と紅葉が素直に受け入れてくれるだろうか。
「わぁ、コスプレは一度やってみたい思っていたのよ」
「よく分からんが、皆が行きたい場所なら私はどこへでも行くよ」
凛は意外と乗り気で、紅葉もコスプレの知識はないが皆に気を遣ってくれた。
道中、凛がコスプレについて紅葉に簡単な説明すると彼女も目の色を変えて乗り気になった。
「ほう。それなら、久々に騎士鎧の姿になってみたいな」
凛や紅葉は長身の背格好で騎士鎧姿は栄えるだろう。
時雨も渋々了承すると、衣装を取り扱っている巨大なビルの前に立った。
「ここだね。早速、中へ入りましょう」
加奈が先陣を切ってビルの中へ入ると、エレベーターの階層が二十階まで存在している。
案内板の各階には別々の企業が入っているようで、オフィスビルだと言うのは一目で分かる。
目当ての店は五階と六階のフロアを貸し切っているようで、一般向けは五階で営業中との事で五階を目指してエレベーターに乗り込む。
胸を躍らせながら、エレベーターが開くのを待っていると到着した先に見えたのは数え切れない程の衣装が目に飛び込んで来た。
すぐ横に受付の女性が控えていると、時雨達に営業スマイルを向けて対応する。
「いらっしゃいませ。当店は初めてのご利用ですか?」
「ええ、そうです」
「では、簡単に当店のご説明をさせて頂きます」
女性スタッフは笑顔を崩さずに説明すると、配布用のタブレットを取り出してみせた。
まずタブレットに自分の採寸を書き込んで、それに見合う衣装が検索可能となる。気に入った衣装をタブレットで選択すると、スタッフが衣装を用意して客に提供する仕組みになっており、気に入った衣装に着替えた後は奥の撮影室でスタッフが写真を撮ってくれる。
一連の流れを聞き終えると、時雨達はタブレットを受け取って人生初めてのコスプレ衣装に臨む。




