第120話 占い(現代)③
固唾を飲んで見守る時雨は占い師の言葉に耳を傾ける。
「お嬢さんが何をご所望なのか見えましたよ。ずばり、素敵な殿方の出会いについてですね。その答えは……」
「えっ、ちょっと待って下さい!? 私はそんな占いを願ったつもりはありませんよ」
占い師は声高らかに結果を述べると、時雨は異議を唱える。
「……えっ?」
顔半分は黒のフードで被われて表情は確認できなかったが、予想外の事態に占い師の声は裏返ってしまった。
咳払いを挟んで、占い師は再度同じ手順を踏んで占いを試みる。
「これは失礼致しました。お嬢さんは学校の進路についてご所望でしたね」
「えっと……違いますよ」
時雨が遠慮がちに言うと、占い師は硬直してしまう。
しばらく沈黙が続いて気まずい雰囲気になると、加奈が時雨の手を引いて席を立つ。
「ほら、時雨。もう行くわよ」
二度も見当違いの内容を突き付けられて、加奈は付き合い切れないと言った感じだ。
最初の加奈が言い当てられた時は偶然だと判断すると、時雨は占い師に一礼して立ち去ろうとした。
「今後も交友関係は良好ですので、学生生活を謳歌して下さいね。ロイド様」
出口の扉に手を掛けて開けると、最後に述べた占い師の言葉を聞く事なくその場を後にした。
「最初はマジかよって思ったけど、話を聞いている内に化けの皮が剥がれた感じだったね」
「雰囲気はそれなりにあって、面白い体験だったよ」
二人はベンチに座ると、先程の占いについて感想を言い合っていた。
加奈が占いの体験を言い当てられたのは本当のようで、前世で隊商の一団を襲撃した際に占い師を薄暗い鉄格子の牢屋に閉じ込めていた事があったようだ。
その際に暇潰しで今後の自分がどのような運命を辿るのか占ったが、何とも滑稽な結果だったらしい。
「人の温もりに溢れた今と真逆の生活を送っていると言ったのよね」
「へぇ、あながち間違っていないね」
その占い師が転生を見越していたのなら、占いは的中している。
結局、次の日に占い師は牢屋から忽然と姿を消して足取りを追ってみたが、消息不明として片付けられた。
「あの時の占い師とさっきの占い師ってどことなく雰囲気が似ていたような気がするのよね」
「私も初めて出会った感じがしないと言うか……妙な気分だよ」
前世の人物が転生もしないでこの世界にいるのはありえない。
時雨が先程紙に書いた内容を加奈は称賛する。
「それにしても時雨も顔に似合わず、えげつない占いを書いたもんだね。『前世と交友関係があった人物について今後どうなるのか』ってね」
「私は素直に知りたかっただけだよ。あの占い師の人なら、答えを知っていると思ったんだけどね」
「見た目に惑わされるなって良い例よ。ふぅ、変に緊張感が高まってお腹も空いたわ」
加奈が締め括ると、そんなものかなと時雨は頷く。
二人はベンチから立ち上がると、休憩室で休んでいた凛と紅葉が元気な姿を見せて合流する。