第12話 就寝
香もシャワーから上がると、時雨は用意された布団を敷いた。
明日は学校に登校しないといけないので、制服も傍に置いて電気を消す準備に入る。
「じゃあ、そろそろ寝ようか」
「そうだね……あのさ、隣で一緒に寝ていいかな? 時雨に変な事はしないよ!」
寝間着姿で香は時雨に頼むと、香の言葉を信じて快く承諾する。
「うん、じゃあ一緒に寝ようか」
香は嬉しそうに布団の中に潜ると、部屋の電気を消して時雨も続いて布団に入る。
香とは小学生の頃から、泊まりにいく度に一緒の布団に寝る機会はあったので、ベッドで押し倒される今まで意識した事はなかった。
暗くなった部屋で、隣にいる香は提案を持ち掛ける。
「ちょっと気が早いけど、夏休みに二人で海へ行かない? 美味しい料理の店や夕日が綺麗に見える絶景とかあるからさ」
「海か……そうなると、水着がいるね」
「じゃあ、今度の休みに可愛い水着を選ぼう」
香と水着を買いに行く約束をすると、嬉しそうにはしゃいで時雨に抱きつく。
海は小学生で家族と一緒に旅行で訪れて以来なので、水着は学校指定の物しかなかった。
遠出をするのだから、宿泊先も手配したりしないといけないので、その辺は後日に香と相談して決めようと時雨は思う。
抱きついた香はそのまま時雨の頬にキスをしてみせる。
「時雨と海に行けるなんて嬉しい……楽しい思い出を沢山作ろうね! じゃあ、お休みなさい」
香は明るい声で言うと、そのまま布団に潜る。
偶然にも、キスされた箇所が凛と一緒だったので眠気が一気に吹き飛んでしまった。
(まさか二人にキスされるとは……)
しばらく雑念を消して暗い天井をぼんやり眺めながら、時雨は床に就いた。
早朝、時雨は制服に着替えて朝食用のサンドイッチをこしらえていた。
香も布団から起き上がり、制服に着替えを済ませると、朝の挨拶を交わす。
「おはよう。時雨の作るサンドイッチは美味しいから、楽しみだよ」
「おはよう。悪いんだけど、冷蔵庫から牛乳を出していてくれないかな?」
「いいよ。食器も用意するから、待っててね」
香は冷蔵庫から牛乳を取り出すと、食器にサンドイッチを乗せてテーブルに並べる。
食前の挨拶を済ませると、二人は食卓を囲んで朝食をいただく事にする。
「時雨は料理が上手だから、良いお母さんになりそうだよ」
「お世辞を言っても何もないよ」
「本当だよ。私が保証するよ」
香は笑顔でサンドイッチを無邪気に頬張りながら言うと、あまりアテにならないなと時雨は思う。
それでも、香が喜んでくれたら朝食を作った甲斐はあるし、香の口にパンくずを拭いてあげた。
「ほら、そんなに勢いよく食べているから口の周りが汚れているよ」
「ありがとう……時雨のそう言った気遣いは私も見習わないといけないな」
「香はそのままの状態で十分に魅力的だよ」
「そんなドキッとする台詞を普通に言える時雨が羨ましいよ」
あまり意識していなかったが、前世で騎士としての習慣で王族や貴族の女性に対しての扱い方を心得ていた関係もあるのだろう。
それが今でも身体に染み付いて抜け出せないのは幸か不幸か分からない。
朝食を済ませると、二人は鞄を持って登校の準備をする。
「食器は帰宅後に私が片付けるから学校へ行こう」
香が玄関先でそう言うと、二人は並んで駅まで歩いた。