第117話 ガシャポン
銭湯以外にもUFOキャッチャーやガシャポンのような娯楽施設が備わっており、加奈が立ち寄ってみたいと所望なので少し時間を潰す事にした。
「このTHE・女騎士って面白そうね。一回だけ回してみようかしら」
加奈はガシャポンの前に立つと、お金を投入して勢いよくハンドルを回す。
見本には騎士鎧に身を包んだ女騎士が通常の四種類とシークレット一種類の内訳で、それぞれ違うポーズを取っている。
「加奈って変わった物に喰い付くよね」
「どうせ引くなら面白そうな物がいいじゃない。ほら、時雨も折角だから何か引いてみてよ」
「ああ、うん。分かったよ」
加奈に催促されると、時雨もその気になって興味を惹きそうな物を探す。
種類が充実して揃っているので、端から見て回っていると面白い物を見つけた。
時雨は早速、お金を投入してハンドルを回すと、取れた中身を確認する。
横から加奈が覗き込むと、時雨が何を引いたのか気になっている様子だ。
「どれどれ、時雨は何を引いたのかな?」
「これだよ」
時雨が中身を加奈に見せると、褐色肌のダークエルフが踊り子に扮している姿だった。
時雨の引いたガシャポンの台には加奈が先程引いたTHE・女騎士と同シリーズのTHE・ダークエルフと描かれた物であった。
「……これはまたどの層に需要があるのかしら?」
「さあ……私のようなダークエルフだった友人じゃないのかな」
「ははっ、それだと開発側は確実に赤字ね」
どの層を狙っているかは分からないが、時雨の冗談に加奈は思わず笑ってしまった。
記念にダークエルフの置き物を加奈にプレゼントすると、加奈も自分が当てた女騎士の置き物を時雨にプレゼントした。
「ありがとう。大切にするよ」
時雨は感謝の言葉を述べると、加奈から女騎士の置き物を手渡されて後悔する。
加奈が当てたのはシークレットの苦悶の表情を浮かべた女騎士で、喜怒哀楽の表情がある通常の四種類とは一線を画していた。
「……前言撤回していいかな?」
「何言ってんのよ。自分の言葉には責任を持たないとね」
正論なだけに、何も言い返せない自分自身に腹が立つ。
時雨は諦めて、女騎士の置き物をカプセルに閉まって封印を試みる。
(二度と開けないようにしよう)
誰かに見られたら、色々と誤解を生みそうなので二度と開けないと心の中で誓った。