第114話 女子力
この世界で魔法が使えないのは実証済みで、魔法云々はあくまで比喩として使っているだけだが、加奈はじっと時雨の瞳を覗き込む。
「……加奈?」
特に何かされる訳でもなく、不安が募ってくる。
視線はそのままでポーズを変えて何かを訴えかけるが、時雨は次第に冷静さを取り戻す。
「のぼせたのかな。それなら涼しい場所に移動しないと大変だ」
「あーもう! 違うわよ。昔は瞳だけで男や女を誘惑できたけど、今は全然駄目だわ」
熱さにやられてのぼせたのではないかと心配する時雨は介抱するのを手伝おうとしたが、どうやら違うようだ。
時雨の手を払い除けて、加奈は不満そうに呟く。
「前世と比べて胸もそんなに大きくないし、時雨よりないのは不公平だ! 香に至っては転生組で一番でかいし」
前世では自前の美貌と誘惑の魔法で数え切れないほど、男女問わず虜にしていたらしい。
ダークエルフは諜報や隠密行動が得意な種族で、相手を手玉に取って情報を聞き出す術は心得ている。
加奈もその例に当て嵌まっていたのだろうが、残念ながら今は普通の女子高生だ。
「私って魅力ないかな?」
「そんな事ないよ」
「でも私の誘惑に引っ掛からなかったよ?」
「日頃の行いが、多分足を引っ張っていると思うよ」
加奈の場合、黙っていれば愛らしい女子高生なのだが、性格が災いしているような気がする。
現に、じっと瞳を覗き込まれたら露天風呂に浸かっているのも加味して、余計に心臓が高鳴ってくるのを覚えた。
「もう少し女の子らしく振る舞ったらどうかな」
「えー、これ以上女子力を向上させるのは無理」
向上の余地はありそうなんだがなと時雨は残念そうに心の中で呟く。
「逆にさ。時雨は何気に女子力高いよね」
「そうかな?」
そんな風に思った事は一度もなかったので、どんな反応をしていいかピンと来なかった。
「料理、裁縫、相手の気配りもできるし、男女関係の話になると照れて可愛らしい反応をする。前世が童貞の騎士様だったなんて想像もつかないよ」
「それはどうも」
最後の一文は余計だが、料理や裁縫は生活を営む内にいつの間にか覚えていた。
「ふぅー、色々話せて楽しかったよ。そろそろ上がらないと本当にのぼせちゃうわ」
加奈は自然に立ち上がると、タオルや片手で胸も隠さず無防備だった。
不意打ちを食らった時雨はたまらず直視してしまって、慌てふためきながら露天風呂から飛び出してしまった。
「うーん、あんな照れた行動を取れる時雨は女子力高いわぁ」
感心しながら、加奈は思わす笑ってしまった。