第113話 四択
「そういえば、凛先輩と紅葉先輩が見当たらないけど?」
「あの二人なら、サウナで軽く汗を流すってそこのサウナ室に入って行ったよ」
時雨は軽く周囲を見渡すと、凛と紅葉がいない事に気付いた。
他人の裸を見ないように極力視線を下に逸らしていたので、凛や紅葉の動向に目が入らなかった。
「時雨もサウナに入る?」
「遠慮するよ。私はしばらくここで露天風呂に浸かっているから加奈もサウナに入りたかったら行っておいで」
サウナが苦手な時雨は自分に構わず、加奈にサウナを勧める。
野次馬根性で凛と紅葉の様子を窺いに行くだろうと思ったからだ。
「私も遠慮しておく。だって、時雨と二人っきりの裸で話せる機会は滅多にないからね」
時雨の予想は外れて、加奈は時雨の傍に寄って肩を並べる。
胸元をチラつかせて言い寄ると、時雨の反応を楽しもうとする。
「は……話すって何を話すのさ」
「ふふっ、何でもいいよ。今なら私のスリーサイズも特別サービスに教えちゃうし、普段は言えない事を包み隠さず裸にして喋りたい気分」
色っぽい声で時雨を誘惑すると、保健室で二人っきりになった時の事が脳裏に浮かんだ。
あの時は時雨の悩みを見透かすように友人として的確なアドバイスを送ってくれた。
加奈は時雨の顎に手を添えると、顎クイする形を取って会話の主導権を握る。
「問題です。時雨の一番好きな女性を選択して下さい」
1、勝気なお姫様だった優等生のお嬢様
2、恋愛にうぶな女騎士様だった堅物の先輩
3、生き別れた弟君だったギャルの女子高生
4、愛情に飢えたダークエルフだった清楚な女子高生
突然、四択を迫られると時雨は困惑した表情を浮かべてしまう。
1は凛、2は紅葉、3は香を指していると思うが、4は首を傾げてしまう。
「4の選択肢は盛り過ぎだろ」
清楚な女子高生とはどの口が言うんだと抗議する。
それに一番好きな女性を選択するなんて到底できない。
「答えは沈黙。皆、素敵な女性達だと思うよ」
時雨は加奈の瞳に訴えかけて、無難な解答を提示する。
時雨の言葉に嘘はないし、きっと納得してくれるだろうと自信があった。
しかし、加奈は意地悪な笑みを浮かべると小さく耳元で囁いた。
「ハズレ、正解は4番よ。その証拠を見せてあげる」
「な……何を」
加奈は時雨に胸元を近付けると、まるで人形を抱くかのように時雨を抱いてみせた。
「解答の説明は簡単よ。だって、私が好きになる魔法を掛けているんだからね」
柔らかい肌と石鹸の香りが伝わって来ると、4の選択肢を実現させようと試みる。