第111話 スーパー銭湯
すぐ近くに人の気配がすると、時雨は慌てた目で訴える。
それに気付いた凛は時雨の傍から離れると、加奈と紅葉の姿があった。
「ここにいたのか」
「時雨にお勧めの漫画を選んでもらってたのよ。二人はもう買い物が済んだの?」
「ああ、ファッション雑誌をこの子に選んでもらった」
情熱的に時雨を攻めていた凛は瞬時に平静を取り戻すと、どうやら紅葉は二人が何をしていたか気付いていない様子だ。
凛の影に隠れて顔が火照っている時雨を加奈が見逃さず、何か進展があったなと悟った。
「二人で会計を済まして来るから、ちょっと待っててね。行こう、時雨」
「は……はい」
凛は満足そうに時雨と腕を組むと、改めて凛が本気である事をこの身で実感した。
袋をぶら下げて書店を出ると、時雨は緊張の連続で全身から汗が目立っていた。
「時雨、あんた汗が凄い事になってるけど大丈夫?」
「うん、平気。少し外の空気を吸っていれば収まるから」
公園で紅葉に告白して、凛から告白を受けてキスを繰り返した事を思い出すと、おそらく時雨にとって一生に一度の大イベントだっただろう。
紅葉に告白した事を凛や加奈に伝えていないので、これを知ったら二人はどんな反応をするだろうか。
「それなら、あそこの大浴場で汗を洗い流そうか」
紅葉が指差すと、すぐ近くにスーパー銭湯の立札が掲げられている建物があった。
それを見た時雨は慌てて首を横に振って拒否する。
「私は大丈夫だから! それに紅葉先輩は私に裸を見られるのは嫌でしょ?」
「えっ、そんな事ないよ。だって、私達は友達から付き合い始めた仲なんだから」
あっ、これまずいなと時雨は直感する。
紅葉はあっさり肯定すると、紅葉の意味深な台詞を凛と加奈は聞き流さなかった。
「ふーん……そうなんだ。私も汗を流したいから、加奈ちゃんも入るよね?」
若干語気を強めて同意を求めようとする凛に、加奈は抗えぬ圧に屈して同意するしかなかった。
「ええ、入りましょう。私も汗を洗い流したいなー」
加奈が棒読みな台詞を吐くと、賛成三、反対一で入浴が決定した。
時雨は凛と紅葉の二人に腕を組まれると、困惑した表情を浮かべて建物の中に入って行った。