第110話 悪役令嬢はメイドと恋をしたい!
凛は参考書の本棚を物色すると、何冊か選別して会計を済ませる。
「推薦入試のために、勉強熱心ですね」
「推薦は取り消すわ。一般入試で臨もうと思うの」
「えっ? それはまたどうして……」
「私は今まで時雨のために剣を振るって頑張ったきたけど、その必要はないんだってあなたの口から聞けた。推薦も剣道を極めるための土台でしかなかったし、大学は自分のやりたい事のために入ろうと思うの」
前世の呪縛から解き放たれて、凛は将来をしっかり見据えている。
そんな凛を心から応援したいと時雨は思う。
「私の用事は済んだし、時雨は何か読みたい物があれば買ってらっしゃいな」
「では……新刊が揃っている漫画コーナーに」
時雨はすぐ横にある新刊が山積みになっている漫画コーナーに目を向けると、凛は興味深そうに目を輝かせる。
「私は恋愛漫画が大好物だけど、時雨はどんな漫画を読むの?」
「私は主に青年誌の異世界の冒険活劇が大好きですね」
恋愛漫画が好きな凛はとても女の子らしいなと納得すると、時雨は新刊の漫画を一冊手に取ってみせた。
「ふふっ、やっぱり男の子は冒険や英雄に憧れるものなのね。折角だから、時雨のお勧めする漫画があったら読んでみようかしら」
「それでしたら、こちらをお勧めします」
最近流行りの異世界転生に関する漫画が並んでいる本棚から、時雨は凛のために一冊選んだ。
『悪役令嬢はメイドと恋をしたい!』
表題を目にすると、凛は興味深そうにどんな内容なのか訊ねた。
「絵柄は可愛らしいわ。どんな漫画なのかしら?」
「百合好きの女子高生が乙女ゲームに登場する悪役令嬢に転生して、お付きのメイドと恋仲になろうとするのですが、近衛騎士団長や王子様が二人の仲に割って入って波乱の展開を繰り広げる恋愛漫画となっています」
「なかなか斬新なあらすじね。なるほど……主人公は私と真逆の境遇になるのか」
悪役令嬢ではないが、前世がお姫様だった凛は成長を遂げて現在は女子高生である。
感情移入できそうな親近感の湧く恋愛漫画を時雨なりに選んでみたが、どうやら気に入ってくれたようだ。
「帰ったら、さっそく読んでみるわ。私のために選んでくれてありがとう」
「喜んでもらえて光栄です」
凛がお礼を言うと、時雨は背筋を伸ばして対応する。
そんな時雨に凛は微笑むと、胸に秘めた想いを呟く。
「私もこの悪役令嬢みたいに時雨と恋仲になりたいな」
「わ……私は」
「カラオケで二人っきりの時に時雨の気持ちは聞いたよ。でも、私は時雨を諦めたくないし、他に好きな人ができてもいい。あなたを愛しているのだから」
凛は時雨の傍に詰め寄ると、誰もいない壁際まで押し込まれて時雨の唇にキスをした。