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第11話 夕食

 食材を買い込んで香の家に戻ると、時雨は野菜を刻んで鍋に放り込む。

 料理は両親が仕事で不在の時に自炊したりしていたので、カレーライスはお手の物だった。

 香の希望で甘口にするために、りんごをすりおろしたのを入れて、食べやすい味に仕上げていく。

 皿にご飯とカレーを盛って完成させると、二人は食卓を囲んで夕食を楽しむ。


「時雨の作ったカレーライスは美味しいな」

「それはよかった。沢山作ったから、遠慮しないで食べてね」


 どうやら香の口に合ったようで、時雨も作ったカレーライスを口に入れていく。

 香はコップに注がれた水を口にすると、時雨に微笑んで昔の話を語り始めた。


「小学一年生の頃、私が同級生の男子にいじめられて、時雨が助けに入ってくれたのを覚えているか? 男子顔負けの勢いで、時雨はほうきを振り回して追い払ってくれた」

「そういえば、そんな事もあったね」


 騎士として人助けは当然の義務だと思っていたし、香は幼馴染の女の子で考えるより先に行動に移っていた。

 今考えれば、無茶な事をしたなと恥ずかしさが込み上がってくる。

 時雨の瞳を見つめながら、香は続けて話す。


「その後、時雨は私の手の甲にキスをして『騎士として当然の事さ』って台詞を私にしてくれた。時雨は女の子なのに、私は時雨を好きになっちゃった」


 香の告白に、時雨は驚いてしまった。

 あの時、香がいじめられて泣き止まなかったので、慰めるために手の甲にキスをしたのは覚えている。

 まさか、それがきっかけで好きになったとは想像もしていなかったので、今まで幼馴染の親友同士だと時雨は思っていた。


「香の気持ちは嬉しいけど……私は親友以上の関係にはなれない」

「……うん。時雨の気持ちは分かっていたつもりだけど、どうしても諦められなかった。時雨の気持ちを無視してベッドで押し倒す真似をしてごめんね」

「私こそ香の気持ちに気付いてあげられなくてごめん。でも、親友同士の友情はこれからも変わらないよ」

「ありがとう。時雨に本音を話せて気持ちがすっきりしたよ。さあ、食べ終わったら時雨に勉強を教えてもらわないとな」


 時雨は申し訳なさそうに謝ると、香は吹っ切れたように清々しい笑顔で応えてくれた。

 二人はカレーライスを食べ終えると、食器を片付けて香の部屋でしばらく勉強する事にした。

 

 辺りはすっかり暗くなると、時計は二十二時を指していた。

 各教科の中間テストの出題範囲を中心に勉強していた二人は手を止める。

 時雨は腕を伸ばして息抜きすると、シャワーに入って休みたいと思っていた。


「そろそろシャワーでも浴びて寝ようか」

「そうだね。昔みたいに一緒に入って背中でも流してあげようか? 勿論、親友同士の裸の付き合いだから、安心していいよ」

「いや……一人でいいよ」

「ふふっ、冗談だよ。たまにだけど、時雨って思春期の男の子みたいな反応をしたりするけど、意外と前世は童貞の騎士様だったりしてね」


 香は冗談めかして言うと、時雨は苦笑いするしかなかった。


(当たっているから何とも言えないな)


 先に時雨がシャワーを浴びる事にすると、下着と寝間着を風呂場まで持っていく。

 時雨は今日一日で色々な出来事を思い出すと、シャワーを浴びながら物思いにふける。

 凛や香は時雨にとってどちらもかけがえのない存在だ。

 それは間違いないのだが、時雨の心の内はもやもやしてしまっている。

 時雨は心機一転のために顔を軽く両手で引っ叩くと、風呂上がりで顔が少々腫れている様子に気付いた香は心配そうにする。


「顔が赤く腫れているけど、もしかして洗顔フォームが肌に合わなかった?」

「いや、そんなんじゃないんだ。少しじっとしていれば治るよ」


 時雨は首を横に振ると、理由は述べずに風呂上がりの牛乳をコップに開けて飲んだ。

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