第108話 合流
しばらくして料理がテーブルに並べられると、食前の挨拶を済ませて食事を楽しむ。
時雨はポテトフライを一口摘むと、スマホに一通のメールが届いた。
メールの主を確認すると、相手は加奈であった。
『これから買い物に出かけようかと思うんだけど、時雨もどうかな?』
内容は買い物の誘いのようだ。
「何か大切な連絡でも入ったのか?」
味噌汁のお椀を片手に、スマホを覗き込む時雨に紅葉が気に掛けてくれた。
「友人から買い物の誘いが入っただけですので、お気になさらず」
「時雨の友人と言うと、あの金髪の子か?」
「いえ、以前紅葉先輩が校門前で自転車のヘルメットを着用していなかった子です」
「ああ……あの子か」
メールの内容を簡潔に説明すると、相手が加奈である事を伝える。
風紀委員の紅葉に目を付けられていた加奈はすぐに顔が浮かんだようで、険しい表情になるとあまり良い印象はなさそうだ。
腕を組んで考え込むと、紅葉は提案を持ち掛ける。
「支障がなければ、私も同行していいかな?」
「えっ、それは構いませんが、この後は用事とかあるのではありませんか?」
「特にないよ。食後は君とどこか散歩に行けたらいいなと思っていたぐらいだからね」
時雨も食後は紅葉と二人っきりでどこかに行こうと思っていたので、加奈の誘いは断るつもりでいた。
紅葉と加奈を引き合わせるのは水と油の関係で混ざらないだろうと波乱の予感がした。
「君や若い子達が普段の休日はどのように過ごしているか観察もしたいからな。よろしく頼むよ」
「分かりました。でも、紅葉先輩が観察する程、大した事はしませんよ」
紅葉の前世は若い頃から貴族の生活に嫌気が差して騎士の世界に飛び込んで活躍し、汗臭い青春時代しか知らなかった。時雨も紅葉と同様に騎士と言う狭い視野だけの世界しか知らなかっただけに、香や加奈と他愛ない話をしたり遊んだりするのはとても新鮮で楽しい思い出になった。紅葉にも肩の力を抜いて女子高生らしい生活を営んで欲しいと時雨は願う。
承諾の返信をすると、待ち合わせ場所に隣駅の改札口を指定される。
二人は食事を終えて、隣駅の改札口まで移動すると私服姿の加奈が立っていた。
水色のポロシャツにデニムパンツを着こなした加奈は時雨を見つけると隣にいる紅葉の姿を見て驚いた表情を浮かべる。
時雨が加奈の傍に寄ると、ひそひそ二人で会話を始める。
「えっ……なんで風紀委員の先輩がいるのよ」
「紅葉先輩に呼び出されていたところに加奈から連絡があったから、先輩も行ってみたいとご所望だったし、駄目だったかな?」
「いや、そんな事はないけどさ」
罰が悪そうに加奈が言うと、そわそわした様子が目立っている。
別に悪い事をしている訳ではないから落ち着いてと時雨がなだめると、駅の改札口からもう一人の待ち合わせ人が姿を現した。
「遅れてごめんなさい。あら、時雨と紅葉も彼女に誘われたの?」
颯爽と合流したのはブラウンシャツと黒のショルダーバッグを肩に掛けた凛であった。