第107話 禁断の魔法
日差しが当たる窓際のテーブルに座るとメニュー表を開いて時雨は二人で摘めるポテトフライ、紅葉は和食の朝食セットを注文する。
二人は向かい合って料理が揃うまで雑談に興じる。
「そういえば、紅葉先輩って好きな食べ物や嫌いな食べ物とかありますか?」
「この世界の料理は基本的に前世と比べて食材や味が洗練されてどれも美味しいから、嫌いな食べ物は特にないな。君はどうなんだ?」
「私も紅葉先輩と同じ意見ですね。夜食でカップラーメンや余った食材を使って簡単な料理を作って食べたりしちゃいます」
店内から食欲をそそる良い匂いが鼻孔を突くと、お互いの好き嫌いな食べ物について話題が盛り上がる。
転生者同士でしかおそらく分からない感覚だが、交通手段が馬車だった前世と車や電車等交通手段が状況に応じて選択できる今の文明レベルでは実体験した二人にとって差が開きすぎているのは明白だった。
特にお湯を沸かすだけで食べられるカップラーメンと初めて出会った時の衝撃は凄まじく、今では時雨の夜食に欠かさせない存在となっている。
時雨が夜食を取っていると知った紅葉は信じられない様子で時雨の身体を観察する。
「君、その華奢な体型で夜食も食べているのか!」
「私、あまり太らない体質なので休日前やテストが近かったりした時は食べたりしますよ」
時雨は自慢気に夜食を取っている事を告げると、しまったと後悔する。
紅葉が風紀委員である事を忘れていたからだ。
(余計な事を言ってしまったな)
夜食のつまみ食いに対して健康管理を注意されるかもしれないと不安がよぎる。
すると、紅葉は無言で席を立って時雨の隣に座ってお腹周りを触り始める。
「わっ!? 急に何をなさるんですか」
「嘘だろ……全然お腹に無駄な肉がない。それどころか、どこにも無駄な肉が見当たらないではないか!」
お腹周りから身体の至る部位を隅々まで調べ上げると、紅葉は驚愕の声を上げる。
「ここの肉は順調に育ちおって、なんて羨ましい体質なんだ」
「ひゃ!? 紅葉先輩……そこはあまり触らないで下さい」
腹いせに時雨の胸を軽く揉んでみせると、時雨は不意を突かれて甲高い声が漏れてしまう。
凛や香にも時雨の体質について喋ったが、やはり二人共羨ましい様子だった。
「そのデタラメな体質は風紀委員として是非とも取り締まって我が物にしたいぐらいだ」
「紅葉先輩、落ち着いて下さい」
風紀委員の名を口に出しているが、魔王のような貫禄で欲望に駆られている。
太らない体質と言うのは女性にとって禁断の魔法みたいな存在なのかもしれない。
一部修正を加えました。
物語の進行に変更はございませんので、よろしくお願いします<(_ _)>