第102話 紅葉の相談
香を自宅まで見送ると、その足で時雨は駅へ向かった。
電車に揺られて座席に座っていると、快晴に恵まれて外の景色を眺めながらゆったりした時間を過ごす事ができた。
パンケーキ屋までは学校の通学路を通って、普段は制服を着用して通る道も私服で訪れると新鮮な気持ちになる。
今日はキャップにスニーカー、白シャツと黒のホットデニムパンツを着こなして待ち合わせのパンケーキ屋まで歩くと、ゴールデンウィーク期間でも若い女性達の行列が出来上がっていた。
「すまない、待たせたかな?」
時雨が通って来た道から息を切らせて紅葉が現れると、学校が休みなのに制服姿だった。
「いえ、今到着したばかりですよ。今日は学校休みですが、制服なんですね」
「学校に用事があったからね。本当は私服で行こうかと思ったが、それで学校に入るのは気が引けて制服にしたのさ」
どうやら、途中学校に寄り道して風紀委員で提出する書類を届けていたらしい。
剣道部と風紀委員の二足の草鞋を履く紅葉は一般の生徒と比べて多忙になるのは仕方がない。
ゴールデンウィーク期間中、基本的に校舎の立ち入りは禁止だが、やむを得ない事情や事前に申請すれば部活動の練習等で集まる事はできる。
二人は列に並ぶと、紅葉は時雨の私服について言及する。
「君、制服姿だとあまり目立たなかったけど、私服だと女子力が高いな」
「あはは……それはどうも」
元上官に女子力を褒められるのは変な気分だが、悪い気はしなかった。
今回は制服姿で残念だが、紅葉の私服姿を機会があれば見てみたいものだ。
凛と同様に背が高いし、スタイルも抜群なので何でも着こなせるだろう。
願わくば、前世のような女騎士姿の鎧に包んだ凛々しい姿を拝見したいものだ。
二人分の席が空くと、店員の案内で席に着く。
時雨は紅茶とアップルパイのセット、紅葉は以前食べたパンケーキを注文すると本題へ入った。
「実は……君に相談したい事があるんだ」
「相談ですか」
愛の告白でもされるのかと一瞬期待してしまったが、相談を持ち掛けられる。
時雨は気持ちを切り替えて、相談の内容を窺うことにする。
「剣道部の後輩にあたる女子生徒から、その……告白されたんだ」
紅葉は膝の上で手をもじもじさせて、弱々しい表情を見せる。
それは時雨にとってショックだった。
男性より女性にモテる器量の持ち主であるのは薄々感じていたが、やはり恋愛は奥手のようだ。
紅葉は続けて言葉にする。
「以前、ここではっきりと君を好きだと言った女子生徒がいただろ?」
「ああ……はい、ありましたね」
香の事だと瞬時に理解すると、あの時は兄弟とは知らず純粋な気持ちをぶつけてくれた。
「女性に告白された対処方法を経験者である君から、色々と参考に話が聞けたらと思って呼んだんだ」
時雨は呼び出されたのを理解すると、自分を参考にするのは特殊なパターンで参考にならないのではと脳裏を過った。