第101話 ゴールデンウィーク二日目
ゴールデンウィーク二日目。
目覚まし時計が午前七時を知らせると、時雨は目を擦って起床する。
机に置いてあったスマホを見ると、深夜に紅葉からメールが届いていた。
『こんな時間に連絡してすまない。明日、君と直接会って話したい事があるんだ』
時雨は話とは何だろうと想像を膨らませるが、風紀委員として呼び出されるような悪い事はしていないし、見当もつかなかった。
前世では兵舎で休んでいた時雨に剣の稽古に付き合えと駆り出される事が多々あった。
上官に気に入ってもらえたのは悪い気もしなかったし、実力を認めてもらえたのは嬉しかった思い出がある。
さすがに、現在は剣の稽古をする相手として務まらない事は以前手合わせした時に証明されている。
とりあえずOKの返信をすると、自室の扉を開けて柚子が入って来た。
「おはよう。これから大学のサークル仲間と一緒に会う約束があるから、夕飯までには戻るわ」
「うん、分かった」
「じゃあ、行って来るわ。ああ、そうだ。今晩は香ちゃんと楽しい夜を過ごせましたか?」
「別にお姉ちゃんが想像するような事はないよ」
「ふーん……そう言う事にしておくわ。出かける時は戸締りよろしくね」
意味深な表情を浮かべて一人で納得すると、柚子は部屋を後にして出かけて行った。
二人のやり取りで香が目を覚ますと、頭を掻いて眠たそうな声を発する。
「んー、おはよう。お手洗い借りるね」
「おはよう。朝食の仕度をするから、そのまま食卓のテーブルまでおいで」
「ふぁーい」
気の抜けた返事で香が部屋から出るのを見送ると、時雨はそのまま台所に立って簡単な朝食をこしらえていく。
焼き上がったトーストとサラダを食卓に並べると、スマホが振動すると先程の紅葉に返信したメールに対して、返事が返って来た。
『ありがとう。待ち合わせ場所と時間は以前に入ったパンケーキ屋で、九時頃でいいか?』
『ええ、構いませんよ』
素早く対応すると、九時に放課後寄り道したパンケーキ屋で待ち合わせる事になった。
香が食卓のテーブルに顔を出すと、二人は朝食を取り始めた。
「私は朝食を済ませたら出かける用事があるから、シャインを家まで見送るよ」
「お姫様とデートの再申し込み?」
「違うよ。紅葉先輩と会う約束があるだけだよ」
「ふーん……そうなんだ」
「シャインも一緒に行く?」
「今日はお母さんと買い物に行く約束があるから、やめておくよ。それに、もうデートの邪魔はしたりしないから安心して」
「デートって……紅葉先輩とはそんなんじゃないよ」
「紅葉先輩とはって事はお姫様の凛先輩はデートだったのか」
「あ、いや……そうじゃなくて」
凛がデートと称して時雨を遊びに誘ってくれたので、デート=(イコール)遊びが定着していた。
慌てふためく時雨に香は思わず笑ってしまう。
「ふふっ、困った顔したお兄ちゃんも可愛い」
「あんまりからかわないでくれよ」
時雨は声のトーンを落としてしまうと、恥ずかしさを誤魔化すためにコップに入った牛乳を飲み干してみせた。