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第1話 プロローグ

こちらはTS百合作品となります。

TS作品は過去に何度か執筆しましたが、ジャンルが恋愛主体なのは初めての経験です。

前々からTS百合作品に興味はあったので、それなら書いてみようかと軽い気持ちで連載を開始しました。

作者の力量不足でツッコミどころのある場面があったりすると思いますが、温かい目で見守って下されば幸いです<m(__)m>

 都内の女子高に通う鏑木時雨(かぶらぎしぐれ)は今日も電車に揺られて学校の授業に出席していた。

 今年から高校一年生になった時雨は退屈そうに窓の景色をぼんやり眺めていると、校庭で二年生が体育の授業で短距離走を行っていた。

 丁度、次の走者には黒の長髪と高身長で剣道の全国大会に出場した桐山凛(きりやまりん)が颯爽と走り抜く姿があり、周囲から黄色い歓声が巻き起こった。


(昔は私もあれぐらいの運動神経はあったけどなぁ)


 時雨は周囲の生徒に囲まれている桐山凛を見ながら、昔の事を思い出していた。

 こことは違う異世界で時雨は一国の姫を護衛する騎士としての記憶があった。

 騎士であった頃は性別も女性ではなく男性として、武術や剣技の心得もあった。

 ある日、隣国の舞踏会に招待された姫の護衛で馬車に乗り合わせていると、敵国の人間が扮した御者が崖から馬車を転落させてしまった。

 身を挺して姫を護ったが、気を失って目覚めると赤ん坊であった鏑木時雨の身体に転生していた。

 前世と違って、魔法ではなく科学が発達した世界を目の当たりにして豊かな生活を送れる事に驚いたが、やはり一番驚いたのは性別が逆転してしまった事であろう。

 前世と比べて身体能力は大幅に変化して、華奢な鏑木時雨に以前のような訓練を積もうとすると身体が音を上げてしまう始末だ。


「ではここを……鏑木さん! 授業中にぼんやりしているのは感心しませんよ」


 時雨は慌てて前を向くと、教壇に立っている先生に注意をされてしまった。


「すみません……」


 反射的に謝ると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「今日はここまでにします。次回までに予習をやっておくように」


 お決まりの台詞を吐いて、先生は教室を離れる。

 深い溜息をつく時雨に、クラスメイトで親友の笹山香(ささやまかおり)は時雨に声を掛ける。


「災難だったね。まるで王子様でも待ち受けているような雰囲気で窓の外を見ていたようだけど、あの先生の授業は退屈だし、気持ちは分かるよ」

「香、慰めてくれてありがとう。今日の授業も終わったし、やっと帰れるね」


 香は時雨と小学生からの付き合いで、この世界での付き合いは両親に次いで長い。

 中学卒業までは黒髪のおさげだった彼女は高校デビューを果たして金髪に染めると、雰囲気は一変したが性格は変わらなかったので安心した。

 帰る仕度を整えると、時雨は朝のHR(ホームルーム)で担任から言われた事を思い出した。


「あっ……今日は日直だから、授業が終わった後に担任から職員室に配布のプリントを運ぶように頼まれてたんだった」

「手伝おうか?」

「大丈夫だよ。ちょっと職員室に行って来るね」


 時雨は席を立つと、香に礼を言って教室を出て行った。

 職員室へ行く前に、女子トイレの洗面台に立って鏡に映った自分を見回しながら髪の毛を軽く整える。

 鏡に映る鏑木時雨は騎士だった面影はどこにもなく、栗色の長髪を肩まで降ろして、カチューシャをつけて年相応の女子高生がいるだけだった。

 幼少の頃は男だった頃の記憶が混合して生活に慣れるまで大変だったが、今ではそつなくこなせるようになった。

 廊下に出ると、すぐ近くにある職員室の扉を開けて担任に挨拶をする。


「先生、配布のプリントを取りに伺いました」

「ご苦労さん。そこにあるプリントを頼むよ」


 担任は忙しそうにパソコンで資料の作成をしていると、時雨と顔を合わせずに机に積まれたプリントを指差した。

 両手でプリントを持ち上げると、華奢な時雨にとってそれなりの重さがあった。


(意外と重いな)


 時雨は一礼して職員室を出ると、両手が塞がった状態で教室に戻るまで階段を上らないといけない事に億劫だった。

 人にぶつからないように細心の注意を払いながら廊下をゆっくり歩いて進むと、運悪く先程体育の時間で短距離走をしていた二年生の一団がぞろぞろ歩いて来た。

 どうにかやり過ごしていると、話し込んでいた二年生の一人が時雨に気付かずにぶつかってしまった。


「うわっ!?」


 思わず時雨は声を上げてしまうと、尻もちをついてプリントを床にばら撒いてしまった。

 ぶつかった二年生は時雨を気遣って手を差し伸べる。


「ごめんなさい! 怪我とか大丈夫?」

「ええ……大丈夫です」


 時雨は差し伸べられた手を握り返すと、不思議な感覚にとらわれた。

 前世で崖から転落する姫を護るために抱き締めた感覚が蘇えったのだ。


「シェラート様……」


 ぽつりと時雨は姫の名を告げると、ぶつかった二年生は時雨と目を合わせて呟いた。


「あなた……ロイドなの?」


 ロイドと言う名は前世で名乗っていたものだ。

 この世界に時雨の前世の名前を知っている者はいない筈だ。

 よく見ると、ぶつかった相手は先程の授業中で窓から眺めて活躍していた桐山凛であった。

 凛は散らばったプリントをかき集めると、代わりに持ち上げてくれた。


「ごめんなさいね。運ぶのを手伝ってあげるから、どこまで運べばいいかしら?」

「先輩にそんな事をさせるのは……」

「ぶつかったお詫びよ」

「では、教室までお願いします」


 申し訳なさそうに時雨が言うと、「先に行ってて」と話し込んでいた二年生と別れて時雨と並んで教室まで歩いた。

 あの不思議な感覚が今でも脳裏に焼き付いていると、凛は時雨に名前を訊ねる。


「あなた名前は?」

「鏑木時雨です。桐山先輩は有名人ですから、存じています」

 時雨は丁寧に自己紹介を済ませると、凛は時雨の教室の前で足を止めた。

「ふふっ……その馬鹿丁寧な喋り方と性格は前世と変わりませんね」

「えっ?」


 時雨は凛の豹変した態度に驚くと、凛は教室の教壇にプリントを置いて時雨に耳打ちをする。


「後で校門前に会いましょう。私の騎士(ナイト)様」


 凛は微笑んでその場を去ると、時雨は胸の奥で鼓動が鳴り響いているのを感じていた。

誤字・脱字の修正を行いました。

ご報告ありがとうございます<m(__)m>


次回が気になると思ってくれた方はブクマ・評価・感想等をしてくださると幸いです<m(__)m>

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