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旅立ちと旅立ち2

渡された地図どおりに道を進むと、宿屋は隠れるようにひっそりと、街路の間に扉を構えていた。


扉を開いて中に入ると、外装の古ぼけた感じとは異なり、白い壁によく手入れされたカウンターと待合用の机、椅子がホコリひとつなく、配置されている。

よく換気が出来ているようで、鼻につく匂いがなかった。

清潔感が溢れる宿屋でジュナイドぽいと感じた。


まだお昼だからか、カウンターの奥に店員がいてどうやって尋ねようかなとふらふらしていると、階段からジュナイドがおりてくる。


『ヘクティスはやかったな。』


ジュナイドは外とは違いフードをおろしており、威圧的な雰囲気もなく、かなりリラックスしているようだ。

潰れた目を隠すための眼帯は左顔面のを覆うように剣の刺繍が入ったものを付けていた。

傷痕だらけの口元もほんの少し口角を上げてる気がした。


『内容が気になったので…。』


『急がせたようで悪いな…私の部屋まで案内しよう。』


ジュナイドは掠れた声でそういうと手招きしてから、階段を登り出す。

僕は少し足早に、手摺りに右手をかけて上がった。


『角部屋を取っていてな、隣は空き部屋で隠し話をするにはもってこいなんだ。』


そう言って角部屋の210号室の扉を開く。

綺麗な木枝の装飾が施された木の扉は蝶番の軋む音もなく素直に開く。


白無地の正方形の部屋の中にベットと机と椅子が配置され、唯一置いてある棚の中には剣術の本がみっちりと入っていた。

隅の方に木で出来た食べ物を入れる籠の中に果物が置いてあり、先程ジュナイドに手を引かれていた子がその中の一つを取ろうとして止まっていた。


『キアラ、お腹が空いてるならそう言ってくれればいのに。』


『ジュナイド忙しそうだったから。』


黒髪短髪の小柄な少女は恥ずかしそうに下を向き、手を果物籠の近くから離す。


ジュナイドは其れを聴くと徐ろにその小柄な少女の近くにいくとしゃがんでからゆっくりと抱擁した。


『ヘクティス、先にご飯にしよう。私の奢りだ。この宿屋の料理は絶品なんだ。注文してくるから少し待っててくれ。』


『い、いただきます。』


先ほどの一連の動作にジュナイドの子供かな?と同様を隠しきれずにキアラの顔をじっと見てしまう。


その動作を見て思い出したかのようにジュナイドは扉を閉める前に言う。


『その子はキアラ。仲良くしてやってくれ。』


それだけ言うとそそくさとご飯の注文をしに部屋から出て行ってしまう。

ファーストネーム後の名をぼかされたことで若干の疑問は残ったものの。勝手にジュナイドの子として認識しておくことにした。


『僕はヘクティス・サイ。よろしく。君はキアラちゃんでいいのかな?』


『キアラちゃんじゃなくてキアラさんて呼んで。ジュナイドのお弟子さん。』


僕よりも頭一つ分背の低い少女は幼子(おさなご)特有の滑舌の少し悪い高い声で返答した。


どうやら僕は少女に嫌われる性質でも持ち合わせているらしい。

剣聖の娘であるカルティアラより当たりは弱いが僕の中でキアラの評価は著しく低下した。


ーーーーーーーーーーー



食事を終え食器を片付けてもらうと少しだけ静かになる。

食べ物の匂いが喚気(かんき)できた後、締められたガラス窓から夜の帳がおりていた。

食事中に本題を話す事をジュナイドが食事を楽しむために配慮して、食べ終わってからにしようということになった。


食後の水の入った木製のコップをそれぞれ手元に置き、落ち着いたところでジュナイドが切り出した。


『今回の遠征は貴族たちの半ば無理やりな采配だ。』


『僕がジュナイドについていくように、王から勅命があったんですよね?』


『王からの勅命と言えば聞こえはいいが、現王は貴族たちの傀儡のようなものでな、国力の低下と私営の発展により、王族以上の力を貴族側が有しているのが現状なんだ。』


『王族と貴族の力関係の逆転ですか…。』


『嗚呼、私たちの人型の魔物の討伐による功績をよく思わない者たちが貴族にいて左遷されたという事だ。』


『僕は足を引っ張っていただけですけどね・・・。』


『ヘクティスがいなければ私はあれだけの力を発揮することは出来なかったよ。』


僕はその返答に何で返していいか分からず、

嬉しい気持ちと反発する気持ちに心が板挟みに合う。


ジュナイドはそんな僕の気持ちを知ってか知らずか、木のコップを口元に当て喉を潤すと話を続ける。


『遠征における表向きの依頼は隣国で小柄だが人型の魔物報告例があったこと。貴族達が協力依頼を名目に私の遠征を無理やり挟み込んだらしい。ヘクティスも、というのはランガと私で何とか取り次いだんだ。ランガの話ではヘクティスの事をよく思ってない連中から暗殺の企てがなされていることが分かったことと、湿地帯での人型の魔物との遭遇が、誘発された物だったことがわかったんだ。』


『暗殺…。』


自分の命が狙われるなど考えたこともなかった。淡々としたジュナイドの報告が僕の脳に信憑性のない文字の羅列として、音声のない言葉として反芻される。


『まぁ、暗殺は私と共にいる限り気にしないでいいだろう…あとはキアラの事で秘密があるが、それは国を出てからでいいか?』


『そ、それは構いませんが・・・。』


頭の中が整理する時間を欲していた。

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