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3年後

3年の月日が流れた。


『姉さん起きて下さい。今日は卒業試験ですよ。』

 

『まだ…。』


 肩を揺すって見るとキアラは寝返りをうって布団から上半身が除く。


『姉さん。寝巻きぐらい来て寝て下さい。』


 俺は流石に少し不快に思い。布団をかけ直していつも通り、下着から制服まで着替えを布団の上に置く。

 余りにもキアラの寝起きが悪いので文句を言った時があり、その時に逆に服を用意する事を仕込まれてしまっていた。

 キアラは日に日にだらし無くなっている気がする。


『姉さん、先にご飯食べてますよ。』


 俺は溜息とともに、扉を開けて出て行く。

 ご飯を一緒に食べると言うのは何となく決まり事になっていて、キアラもご飯には起きてくれるので、ご飯という言葉を入れると起きて来る確率が物凄か上がる。

 

 マリーナさんとジュナイドに挨拶をして、キアラを待っていると案の定、キアラは制服のボタンを掛け違えてるにも関わらずドタバタと階段をおりてくる。


『みんなおはよう!』


 俺達は三人とも慣れたもので、苦笑しながら挨拶を返す。

 キアラは髪が伸び腰まで届きそうな綺麗な髪をポニーテールにしているのだが、今はまだ髪を纏められてすらいない。


『姉さんボタン掛け違えてますよ。』


『えっ、あっ、本当だ。』


 まだ寝ボケてるのか、キアラは若干鈍い反応の後のろのろとボタンを直す。


『いただきます。』


 キアラがボタンを直すのを見守ってから、俺達は揃って食前の感謝の言葉を述べた。


『今日は卒業試験か。』


『かなり森の奥まで行くみたいです。』


『はぁ、私は戦闘立案とか適当な官職ついて楽するつもりなのに、実地試験とか無いわぁ。』


『キアラ様、ヘクティス様もついているんですから、足だけは引っ張らない様にしないと。』


『失礼ねマリーナ!私は家では自堕落でも、外だと歩けば芍薬座れば牡丹と称されるほどなのよ!』


 俺達含めて五人しかいないクラスメイトの関係から見てもその位置はラティスであって決してキアラでは無かった。

 マリーナは俺の残念そうな顔をみて察し、言葉を飲み込んだ。

 キアラは授業態度は最悪だし、訓練もまともしない。だが、全て高水準で学習している。寝ながら授業を聞きとれば全てを覚えているし、訓練中の俺達の動きを見ていれば、完璧に真似ることができる。理不尽の権化の様な存在になっていた。

 ラティスから見たら唯一の女友達。スオラから見れば自分の目を覚ましてくれた恩人。 クレオから見れば危険に晒した負い目があり、オーゲン先生から見れば、ジュナイドが極秘で守っている王族である。

 遂にキアラの鼻っ柱は3年間一度もおられる事は無かった。


『キアラ、行儀悪いぞ。』


 ジュナイドは立ち上がって胸を張るキアラにお父さんみたいな事を言った。

 掠れた低い声だが、聞き慣れた声から女性的な色気を僅かに感じる。

 いや実の所、最近夢精をしてからジュナイドの事を少し意識してしまっている。

 マリーナさんはメイド服で身体の線が隠れているが、ジュナイドのピッタリとした制服が少し艶かしく感じてしまう自分がいる。

 幸い、全員そう言うことには疎いらしく気付かれた気配はないが、これも前世の記憶があったからこそ可能な事だった。夢精した時に直ぐに夢精したんだとパンツを洗えたのが大きかった。自分が身体も心も思春期に入ったんだと言う意識を持つ事が出来た。


『はいはい。でも最近、頭痛がきたり、お腹痛くなったりして大変なのよねぇ。だからついつい自堕落しちゃうのよねぇ。』


 ものはいい様だなと思っていると。


『生理か私は、もう大分前に止まってしまったな…。』


 口に出される事はないと思っていた単語の出現で、俺だけかもしれないが妙に居心地が悪くなる。


『デリカシーってもんがないわけ!?』


 珍しくキアラがジュナイドに怒った。 


『すまん。』


 キアラと俺を目だけで見るとジュナイドは素直にキアラに謝った。

 俺はそれでさらに居心地が悪くなる。そして静まり返った食卓にマリーナが助け船をくれる。


『お二人とも遅刻してしまいますよ。』


 止まってしまったかの様な時間が動き出し、俺達は黙々とご飯を食べた。


-------

 何百回と通った道を歩き、騎士見習い養成所が見えてくる。

 最近知ったのだが、一般教育期間とは別でエリート騎士、または官職を英才教育で育てると言う新たな試みの元生まれた試験的な教育モデルの実験だった様だ。

 中学生以下の俺達に結果を残せないと言う方が酷な筈だが、集められた子供達は全員剣将、剣帝の家系である。可能性は充分に考慮されていた。そんな中、やはりこの三年間で功績を残せたわけではないため、後輩達がくる事はなかった。

 ぶかぶかだった制服がぴったりのサイズになっている。


 『おはようございます。』


既に教室には全員揃っていた。もはや日常になった、スオラがボールの中の魔力を押し出そうと集中している姿があった。諦めて居ないのはスオラだけだ。

 全員と軽く挨拶を交わして席に着く。キアラがすかさず、机の上に突っ伏してしまう。

 

『キアラさん、後衛頑張りましょうね。』


『んあー。』


 ラティスの方も向かずにキアラは気の抜けた返事をする。

 実地試験で大分固まった其々のポジションがあった。

 俺とクレオが前衛だ。俺が気配を探り、クレオの真眼で敵を捉える。中衛のスオラが前衛後衛のサポートをしつつ、フィニッシャーで、後衛のキアラが回復と、補助。其れを守る様に動くのが同じく後衛のラティスの役割だった。


 気の抜けたキアラの様子を察したのかクレオが近付いてくる。まぁ、いつもキアラは気が抜けているのだが。


 『最近、影付きの魔物がよく出没するみたいですから、油断大敵ですよ。』


 そしていつの間にかスオラが横にいる。


支配魔物(ドミナート)くらいならどうとでもなるが…』


 影付きの魔物を、支配魔物(ドミナート)と名称される。魔物に影が模様の様に入り込み、明らかに魔物を操っているかの様に動いてくる事かららしい。


異形魔獣人(リバース)に出会ったら全力で逃げるしかない。まぁ、100年前ぐらい前にしか確認されて無いがな。』


 キアラが余りにもいつも通りなので、あのキアラの舎弟の様なスオラでさえ、遠回しに気を引き締めるようにそれとなく促してくる。

 卒業試験なのだ。始めてのワイバーン討伐任務なのだ。キアラ以外の全員が言うまでもなく緊張していた。


『んあー。』


 相変わらずキアラは適当な相槌を返していた。


『お前らー。集まってるかー。』


 オーゲンが教室に入ってくるといつも通りのテンションで、全員を確認してくる。


『終わりよれば全てよしと言う事でだ、卒業試験頑張っていくぞー!』


いや、オーゲンも僅かにテンションが高かった。キアラ以外、俺達は全員で拳を上げて。気合いを入れた。


-----

剣王国の反対を向く西門から森に入る。


『じゃぁ俺は此処までだ。しっかりワイバーン解体してこいよぉー。』


 そう言うとオーゲンは手を振りながら去っていく。


『よし進もう。』


 リーダーのスオラが全体的動きの指揮を執る。俺が木に印をつけながら距離を保って進み続ける。


『全然魔物の気配が無いです。』


『こんなに静かな森も珍しいね。』


 クレオが俺の不安をかき消す様に前を歩いていく。


『スオラ、そろそろ休憩しない?』


『キアラさん、まだ一時間も歩いて無いですわ。』


『みんな緊張しすぎなのよ。これじゃワイバーンの生息域に着く前に疲れきっちゃうわよ。』


『後少し歩けば休憩所があるので、そこで一度休みましょう。』


 スオラが冷静に対応する。既に何度も来た森だが、今日は今まで行ったことない、奥の方まで行く。探索時間やペース配分を考えて話し合って来ているが、森のその日の温度や、湿度で足への負担が大分違う。後ろから皆んなの状態をよく見ているキアラの意見は無視できるものではなかった。


 暫く進むと森の中に開拓された開けた空間にでた。


『魔物避けを四方に配置してくれ。俺は水を用意してくる。ヘクティス君、一緒に頼めるかい。』


 キアラとラティスが魔物避けの匂い袋を揉み匂いを強めると、クレオと其々持って四方の丁度いい木の枝に吊するために動き始める。

 俺はスオラと一緒に近くの川に水を汲みにいく。


『思ったより、皆興奮状態で疲れていたみたいだね、流石キアラさんだ。』


『ペースも大分速かったみたいです、前にいると森に吸い込まれる様に足が速くなってしいました。もう少し後続を意識する様にクレオと見直してみます。』


 水を汲みながら自分達の状況を客観的に捉えられているか冷静にお互い確認し合う。水を汲んで帰ると、皆んなの顔から緊張が少しとれてるような気がした。

 俺はクレオとペース配分について現状を把握し合い、キアラとラティスにも情報を共有した。

 魔物避けの匂い袋をラティスとキアラが回収してコップ等を鞄にしまいスオラが背負う。


『今度は全員、隊列の意識を忘れずに行こう。』


スオラの引き締めの言葉に全員がうなづく隊列を組んで歩き出す。

 森は相変わらず静まり返っていたが、都市を出る時程の浮き足立っている感じは無かった。木の間から生暖かい風が流れてくる。


『この先に魔物がいます。スオラ指示を。』


 俺が魔物の気配を察知して充分な時間から、スオラに目配せする。


『クレオ視界に取れる位置へ。ヘクティスは後衛で、逃げ道の確保、ラティス、奇襲の準備、キアラさんは俺と同じ位置に。』


『視界に捕らえたよ。』


『後方に魔物気配はありません。』


雷起動(オーダーディスチャージ)準備万端ですわ。』


『よし全員、戦闘準備。ラティス、クレオのマーク成功後奇襲開始。』


 クレオは少し開いた位置から片手に装備されたクロスボウに弓をつがえる。


印起動(オーダーマーク)。成功だよ!』


 クレオは心眼系のギフトに特化して成長し光の属性の精霊を身に宿していた。

 オーダーマークは魔力を通した物を相手に接触させる事で物に宿った魔力が尽きない限り一方的に相手の行動を追えると言うスキルだった。そのスキルで自分が得る情報を仲間の一人に共有できるのがギフト真眼により可能性になる。

 ラティスの目に光が灯ると持っていた武骨な大剣を軽々と構え、電気が迸り、一直線に魔物の頭を刈り取った。


『よし、全員魔物解体に移るぞ。ヘクティス、クレオは周りの警戒を頼む。』


 ラティスが魔物の身体を解体する為に近付こうとした時に異変が起こる。

 首から血を噴き出していた魔者の身体が急にビクビクと動き出す。ラティスが急いで身体を離し剣を構える。

 魔物は頭が無いのも関係なく、血が噴き出すのも関係なく、操り人形の様に身体を起こした。

 その魔物の身体中に意思のある様な影模様が溢れ出した。

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