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少年の産声

初投稿です。

異世界テンプレとファンタジーが好きで書き始めました。

よろしくお願いします。


 あの金髪とサッカー部のジャージが目に入った瞬間、悟った。

 彼こそが世界を救う希望なのだと。





 野田恭兵(のだきょうへい)、十六歳高校一年生。これといって趣味はなく、たまにライトノベルを読むくらいである。

 

 その日恭兵は、近所のコンビニへシャープペンの芯を買うつもりでいた。ついでに立ち読みしていこうと。

 家から出てコンビニ近くまで来たところでスマホの時刻を確認した。ちょうど部活帰りのクラスメイト達が帰宅する頃だ。鉢合わせしたら嫌だなと舌打ちをし狭い路地へ曲がった。


 何も前触れはなかった。突然赤い光が周囲を照らした。

 コンクリートの壁も道路も標識もすべて真っ赤に染まり、その強烈な光に立ち眩みを起こした。

 まるで巨大なスポットライトに当てられたような、まるで、遠くから誰かに見られてるような、そんな気がして転びそうになりながらも空を見上げた。


「何も、ない……?」


 ずれた眼鏡を直し、いくら見渡しても周囲を赤く照らすライトなどどこにもなく、また自分以外は誰一人いなかった。


「ドッキリじゃないのかこれ、なんなんだ? ひょっとして怪奇現象か!?」


 全く予測がつかず根拠のない自信と期待感がこみ上げてくる。

 段々物の輪郭が分からなくなるほど赤い光が増し、恭兵は耐えきれず両目をぎゅっとつむった。



 彼は眠っていた。

 深い闇に閉ざされて。誰かに温もりを与えられて。



 鼻の穴から空気の泡がぽこぽこと昇ってゆく。状況を理解する前に凍えるほどの冷たさが全身を襲った。

 刺すように冷たい水が口や鼻の中まで入ってくる。必死に開いた目に映ったのは水草で覆われた薄暗い水底だった。


 冷たい! とにかく冷たい!


 明るい水面から顔を出して思いっきり息を吸う。


「ッはあ……! はあ、はあっ」


体勢を整えるとすぐに岸を見つけ真っ直ぐ向かった。スウェットが水を吸って非常に動きづらく、クロールでは無理だと思い、背泳ぎで岸辺まで泳いだ。


「なんで泳げたのか分かんないけど泳げてよかった……」


 安堵(あんど)と共に笑いがこみ上げきて息が整うのを待った。

 寝転がるのも飽きたころ、彼は考え始めた。赤い光に照らされたと思ったら、急に水の中である。一体何が起きたのか不思議で仕方がなかったが、空腹に気付いた。最後に時間を確めたのが夕飯前だったのを思い出し、ポケットに手を入れる。


「ないっ!?」


 何度もポケットの内側を探るが何も掴めない。


「え……嘘だろ!? なんでないの? ええー最悪すぎ……」


 路地に入る直前には確かにあったスマホが、もう片方のポケットに入れといた財布が、どこにもない。うんざりして足元を見れば土まみれの裸足(はだし)

 目を細め湖を見やるが探す気にはなれなかった。景色がすべてがぼやけていることに気付く。


「あ……」


 顔に手を当てた。


「眼鏡がないっ!」


 ひとまず彼は目の前の危機から目を()らすことにした。

 跳んだり跳ねたり、なんとなく走ったり。しかし何も起きない。助言をくれる神様も現れない。シルバーアクセサリー持っていなかった。彼は何も持っていなかった。


「……ヘブッシュッ」


 おまけに風邪をひいてしまった。


 そのまま何か事を起こすこともせず、すっかり日が暮れて夜が更けたころ疲れと共にふて寝をした。やけに黄緑色っぽい夕日も、紫色に輝く夜空も、しばらく見ているうちに飽きてしまった。







 二日目。


「おかしいな……昨日あれだけ動けたのに……」


 目が覚めると昨日より空腹感が強くなっていたが、周りの木々を見渡しても食べられそうな木の実はなっていなかった。なにより体がだるくて動けない。

 結局彼は寝転がったまま両手で落ち葉をかき集めて暖をとり寝てしまった。そして目を瞑って誰かが見つけて助けてくれる想像を何度もした。

 長いようであっという間に日が暮れて一日が終わった。



 三日目の朝、ようやく彼は助けが来ないことを(さと)った。

 昨日より幾分(いくぶん)か体が楽になったようだ。落ち葉や土で茶色く汚れて湿ったまま湖を離れることにした。


 山の中、人工物が一つもなく歩いても歩いても木ばかり。もはや元来た方角もわからなくなり、一度しっかり休もうと彼は小高い斜面にあった倒木に腰を下ろした。草木や石などを踏んでしまって出来た足の傷をさすりながら呟いた。


「なんで誰もいないんだろう。こんなに痛いの初めてだ……」


 しかし、いくら嘆いても遭難中という状況は変わらない。何度も休み休みに山を下ったが、その判断が正しかったのかわからなかった。


 いつしか少年の頬には涙の筋ができていた。それは痛みからか、それとも悲しみ、寂しさからなのか本人にもわからない。

 山を下れば人に出会える。そう信じて進み続け、そしてとうとう希望の糸口を見つけた。


「木にヒモがくくりつけてある……あっちにも! やった! 帰れる!」


 彼の足取りは軽くなり、遠くを木の枝の間から首を伸ばしながら必死に進んだ。日が沈みかけた頃、ついに現地人らしき人影を視界の端に捕らえた。


「おーい、そこの人! 助けてくださいー!」


 やや(かす)れた声で呼び掛けると、人影は体をビクッと強張(こわば)らせゆっくり振り向いた。近付くとそれは、色褪(いろあ)せたボロ布を巻き付けたようなみすぼらしい格好の若い男だった。ふらふらと虚ろな目をして裸足で歩いている。彼はその奇妙な姿に思わず顔をしかめたが、顔がはっきり見える位置まで距離を縮めると男は怯えた様子で喋った。


「*******! ……****?」

「え……あのわかんないです……」


 なぜ気付かなかったのか、なぜ想像出来なかったのか…………


「***! ***! *******……」

「**********!」


 ここは現代日本ではなく、()()の知る世界ではないということに。


 男は何か鋭く叫んで手に持った長い棒を恭兵に突きつけ、まるで狼の遠吠えのように上空へ大声で叫んだ。


「な、なにをっ……」


 木々の陰から同じように粗末な格好で棒を持った人が 二、三人出てくる。先端をよく見ると細く尖っており、まるで槍のようだった。彼を敵と見なしているのだ。


 ショックと焦りで体のバランスが保てなくなり、視界がぐにゃぐにゃになったと思ったら、意識がブツンと切れた。







「被検体No.12(エル)、意識を失いました」

虚脱症候群(シャッテンマン)達はNo.12(エル)をどこかへ運ぶようです。いかがいたしますか、所長?」


 二人は背後に(たたず)む男に指示を仰ぐ。


「奴らの好きにさせよう、我々は引き続き観察を続ける」

つづきます。次話ヒロイン登場します。


4/27 誤字修正、他一部変更しました。物語自体に変更はございません。

5/10 大幅に改稿しました。物語に差し支えはございません。

7/15 改稿しました。

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