フィッシュ・アイ
まな板の上に置いた魚を捌こうとするとき、いつも思うことがある。
それは、彼あるいは彼女はこの瞳で、生前どんな世界を見ていたのだろうかということだ。
魚の眼が怖いという人がいるが、僕はむしろ尊い気持ちを抱く。
文字通りの魚眼レンズに映る、ひたすらに青い世界。海藻や珊瑚が茂り、三次元に自由に動き回れる世界。
そんな世界を自由に泳いでいたのが、うかつにも僕の釣り針にかかってしまった。
突然仲間が急上昇してどこかへ消えてしまった群れの魚たちは、不思議に思いつつもすぐに忘れてしまうのだろうか。
申し訳なくも思うが、やはり美味しく食べるというのが最大の供養ではないかと思う。
リリースというのも一つの手かもしれないが、僕はどうにも偽善的で好きになれない。
御託が長くなってしまった。子どもたちが今日のごちそうを待っている。
僕は、心を込めて包丁を入れた――。




