海鳥使いの小鬼 キイタ
孤独は鬼でも苦しい。人ならば尚更
だから、失うばかりの人生の中で、繋がることを諦めてはいけない
” 昔々を”テーマに少し考えてみました
皆さんはどうおもいますか?
昔々あるところに鬼ヶ島がありました
鬼ヶ島にはある言い伝えがあり、それはモモタロウという人間が動物達を従えて、鬼を滅ぼしにくるというものでした
しかし、度々に占いで鬼ヶ島が滅亡するだろうという類いの予言が出されても実際には滅びたことは一度もなく、言い伝えを信じるものは、ほとんどいませんでした
海岸のほとり。空は清々しいほど晴れ渡り、近くでは砂浜に風と共に降り立った海鳥が鳴いていました
そんな海鳥に囲まれた中で、小鬼が座り込んで、泣いていました
小鬼の名前はキイタといいます
キイタは村に住む他の小鬼達にいじめられていたのです。鬼の象徴である二本の角が、自分にだけ一本しか生えていないことがいじめられている原因でした
「お父さんもお母さんも二本あるのに、なんで僕だけ一本しか生えてこないの?」
小鬼は目を腫らしながら溢れ出てくる涙を、袖で何度も拭っていました
泣いているキイタを心配したのか、近くにいた海鳥たちはキイタのことを心配そうに見つめています
「心配してくれるのかい、ありがとう。ほら、またあまりで悪いけど、お食べ」
優しい一本角のキイタには、友達がいました。友達はこの海鳥たちです
こうして、ご飯のあまりを分け与えているうちに、キイタは海鳥たちにすっかり懐かれていました
ご飯を貰った海鳥たちは、嬉しそうに鳴き声を上げて、キイタの宙空を飛び回りました
「喜んでくれたかい」
返事をするように、海鳥たちは上空から舞い戻って来て、再び鳴きました
ある日、キイタは村の公園でまたいじめられました
「やーい、この一本角。お前なんか鬼じゃない」
小鬼たちに踏んだり蹴られたりするキイタは、思いました
少し違うだけでどうしてこんなに酷いことをされるのだろう、と気付いたら悲しくてキイタは涙をポロポロと溢していました
「こいつ、泣いてるぜ。意味わかんねえ、お前が一本角なのが悪いんだろ」
いじめは止みません
何が悪いの?教えてよ……
キイタが抵抗すら放棄しようとした時に、建物が崩れる轟音が響き渡りました
「なんだ、なんだ!?」
大人の鬼たちもしきりに慌てて、音のした方向を見つめています
すると、そこには言い伝え通りの姿をしたモモタロウ、犬、猿、キジが鬼退治を行なっていました
言い伝えは本当に起こったのです
鬼たちはパニックになり、先ほどまでキイタをいじめていた小鬼も逃げだしました。大人の鬼たちが金棒でモモタロウに応戦しますが、全く歯が立ちません
このままでは鬼ヶ島は無くなってしまいます
あっという間にモモタロウはキイタの前にやって来て、刀を振り上げました
僕はここで死んだ方がいいのかな……
放心したキイタにモモタロウの刀が振り下ろされようとした。その時に、
たくさんの海鳥たちが飛んできて、一斉にモモタロウを攻撃し始めました
「お前たち……」
攻撃を終えた海鳥たちは、キイタの周りを嬉しそうに飛び回った後、村の井戸水を巻き上げてモモタロウにぶつけました
「うわあ、やめろ」
モモタロウたちはどんどん海岸の方へと追いやられていきます
海鳥たちは、キイタを守ってくれたのです
追いやっていく海鳥を追うように、キイタは海岸までやってきました
「お前たち、モモタロウを追い返せ」
キイタの命令を聞いた海鳥は元気よく鳴いてから、横一列で水面を低空飛行して、大量の海水を引き連れてきました。やがてそれは大津波となり、モモタロウ達を遠くの海へと流していきました
言い伝えのモモタロウをキイタとその友達の海鳥が追い返したのです
その様子を見ていた村の大人の鬼たち、みんながキイタを称えました
”海鳥使いのキイタ。英雄の一本角”と
それから、なにかが変わったかと言われれば、いじめられていた広場にはキイタの銅像が建てられたくらいでした
友達は未だに海鳥たちくらいです
しかし、キイタをいじめる小鬼たちはもう誰もいなくなりました