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超短編2

騒音被害。

作者: しおん

「最近騒がしくってあんまり寝付けないんだよな」


 目の下にクマを作った友人が、そう言ったことがきっかけだったと思う。

 彼が言うには、隣室からの騒音被害にあっていて、連日連夜、その音で起きてしまいあまり眠れていないのだという。その話を聞いた俺ともう一人の友人は、さすがに毎日うるさいのは相手が気付いていない可能性もあるし注意するべきだろうと考え、学校帰りに友人宅へ押しかけたのだった。


「この部屋だよ」


 着いた先は、いかにも安そうなおんぼろアパートだった。

 一人暮らしの彼としては限られた仕送りを家賃なんかで削られるのは我慢ならないらしく、学校に程よく近く、最低限住めるだけの機能を持った部屋であればどこでも良かったらしい。そして、その中から一番家賃が安い部屋を選んだらこうなったと昔彼の部屋を訪れたときに耳にしたことがある。


 壁にツタがはえ、外壁はくすんで汚れているこのアパートは、軽い地震に耐えられるのか心配になるほどに華奢で、鉄製の階段は錆びて何か所も小さな穴が開いてしまっている。俺ならこんな部屋には安くても住みたくはないものだが、この世にはいろいろな人間がいたらしい。他のアパートが住人を募集している中でこのアパートだけは満室なのだ。驚くほかない。


 騒音被害にあっている友人の部屋は、先ほど語った階段の一番近くにある。カンカンと今にも崩れ落ちそうな階段を上っていくと表面の塗装がはがれかけたドアが3枚並んでいる。その中の階段に近い1枚に鍵を指すと、なれたように友人は俺たちを部屋に招いた。そうして俺たちは友人の部屋についたのだった。


 このアパートは外観こそ廃れているが、内観は以外にもきれいで住むことに支障がなさそうなのが腹立たしい。これで中も汚かったら笑いごとにもできたというのに。こんな中途半端じゃリアクションも取りづらいというものだ。


「ほら、うるさいだろ?」


 部屋について第一声がそれかと思いながら、物音に耳を傾ける。外にいた時は気が付かなかったが、室内に入るとその音は鮮明に聞こえた。人が話しているような声と音楽でも聞いているのかドッドッドという重低音が左右それぞれの壁から聞こえたのだ。


 片方は飲み会でもやっているのか結構な賑わいで、彼らが大声をあげているのかただ話しているだけなのかはわからないが、俺たちの話し声も同じくらい向こうに聞こえているのだろう。俺たちも飲み会やらで騒いだことがあるので、これはお互い様だ。それに、飲み会は10時くらいまでには静かになるらしく、安眠妨害の原因ではないらしい。


「このさ、ドッドッドって音がうるせーんだよ」


 言いながら頭をかきむしる友人は、ひどくストレスが溜まっているらしい。不機嫌を隠す気がないみたいだ。


「この音がずっとしてるんだよ。寝る時も起きた時もずっと。マジ迷惑」


 すると、隣人はずっとこの音を聞いて過ごしているというわけか。俺は音楽はあまり聞かないからわからないが、音楽を愛好している人はずっとその音を聞いていたいものなんだろう。だが、それにしても限度がある。夜のような静かな時間帯はイヤホンで聞くとか少しばかり配慮すればいいものを、共同住宅に暮らしている自覚はあるのだろうか。


 スピーカー機能を使っているからか壁に少し振動が伝わって、壁にはっていたと思われるポスターやカレンダーは剥がれ落ちて床に転がっていた。まるで壁を叩き続けているような揺れ方に被害としては騒音だけではなく、振動もあると思われる。これは一刻でも早く注意するべきだろうと結論を出した俺たちは、さっそく隣の部屋へ向かうことを決意した。そしてその時、重要な見落としがあることに気付いたのだった。


「あのさ、言おうとは思ってたんだけど……そっち側って部屋あったか?」


 部屋についてからずっと黙っていたもう一人の友人は、ひどく青ざめた顔でそう言った。部屋があるも何も現にうるさいのだ、何を言っているんだと言葉を返そうとした時小さな違和感を感じた。


 俺たち三人は友人の部屋を訪れた時、階段を使った。錆びた階段があったのはこの部屋のすぐそば、というか隣なのだ。部屋の片側には階段があって、もう片方は人が暮らしている。人が暮らしている方は10時までの飲み会が現行されていて、人が多くいることも分かる。じゃあ、もう片方から聞こえてくるこの音は何だ。


 俺たちはこの部屋を訪れるときに階段を上ってきたのだ。階段には俺たちのほか誰もいなかったし、一晩中階段で壁を叩いている奴なんかいたら、少なからず噂になるはずだ。それに、俺たちが部屋に入った時にはすでに音が鳴っていた。俺たちの後をぴったりとついて来でもしない限り、都合よくこんな事ができるわけがない。


 じゃあ、いったい何が……。


 部屋の主である友人も同じ事に思い当たったらしく、青い顔でこちらを見ている。その間も壁からの音は止むことはない。いや、むしろ余計に音が大きくなった気さえする。


「どうすればいい?」


 やっと口を開いた友人は、助けを求めるように俺にそんなことを言ってきた。でも、それは俺のセリフでもあるんだよな……。


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