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お疲れ様です。毎年恒例の花見大会を開催いたします。

作者: 栖坂月

「先輩先輩っ」

「どうした後輩?」

 隣の席の若造(入社五年目)が社内メールを見て慌ただしく呼びかけてきた。

「花見があるらしいですよっ」

「知ってるよ」

 そんなメールはとっくに閲覧済みだ。

「何かサボる口実ないっすか?」

「いきなりサボる気なの?」

「だって面倒じゃないっすか」

「そりゃわからなくもないが、会社の金で飲み食いなんていい身分じゃないか」

「まとめサイトの巡回で忙しいからってのはダメっすかね?」

「ダメだろ!」

「人間、正直なのが一番だと思うっす」

「うん、気持ちはわかるけどな。大人には大人の事情っていうものがあるってことを、いい加減学びなさい。もう四捨五入したら三十路なんだから」

「あぁ、それなら先輩といっ――何でもないっす」

「最後まで言えよっ」

「いやぁ、先輩も四捨五入したら30かなって思ったんすけど、40でしたよね」

「まだ34だよっ!」

「ドンマイ!」

「うざい!」

 というか、その性格でどうして花見を嫌がるのかが謎である。

 むしろ喜々として参加しそうだが。

「そういえばお前、新年会や忘年会も出てないよな?」

「どうして知ってるんすか? はっ、まさかコッソリ僕のPCでメールをチェックしてるんすかっ?」

「してるワケないだろっ」

「じゃあじゃあ、まさか毎日観察日記つけてるんすかっ。ホモストーカーとか最悪っす!」

「最悪なのはお前だよ! そうじゃなくて、オレは会社のイベントは基本休まないからな。だから知ってんの」

「社畜っすね」

「うるさいよ」

 むしろ貧乏性と言え。

「というかお前、ひょっとして会社のイベント全部休んでいるのか?」

「そうっす」

「なら、オレに聞くよりお前の方がそういった言い訳に慣れてるだろ。今回も似たような理由で休め」

「いや、それがっすね」

「何だよ?」

「今の僕は、肉親はもちろんペットにも先立たれて天涯孤独ということになってるっす」

「知るかっ。というか、正直なのが一番なんじゃなかったのか!」

「先輩、大人には大人の事情ってもんがあるっす」

「お前のウソは中学生以下だよっ?」

「しかし困ったっすねぇ。今度は誰に死んでもらうっすか……」

「色々とツッコミたいところだが、とりあえず友人の誰かでも死なせとけ」

「年末年始で立て続けに二人死んだんで、さすがにこれ以上やると僕のあだ名が『コナンくん』になるっす」

 むしろオレが呼んでやるわ。

「うんまぁ、さすがにこれ以上は――」

「あ、先輩が死ぬってのはどうっすか?」

「おい、いい加減にしとけよコナンくん」

「いや冗談っす」

 絶対ホンキだっただろ、バーロー。

「もういいんじゃねぇの。まとめサイトの巡回で」

 というか、もう普通にバレてるだろ。幹事も察してくれるに違いない。

「うーん……」

「何で悩むんだ?」

「じゃあ、間を取って先輩とデートだからってことにします」

「どことどこの間を取ったのっ?」

「いいじゃないっすか。先輩も花見サボるんでしょ?」

「まぁそうだけど――って、何で知ってるっ?」

「あ、返信メール見たっす」

「おいっ」

「更に言うと昔の返信メールも全部チェックしてるっす」

「おいいいぃぃいぃいっ!」

 こいつホモストーカーやんけ!

「一緒にサボると下着漁りとかできないっすけど、デートなら我慢するっす」

「オレが我慢ならんわ!」

「さすがのツッコミっすね。夜のツッコミもそのくらいのキレでお願いするっす」

「しねぇよっ!」

 何てことだ。オレの平和な日常が既にホモストーカーの餌食になっていたなんて……。

「というのが苦で自殺しましたって設定でお願いするっす」

「むしろお前が死ね!」

「あぁなるほど」

 後輩はポンと膝を叩く。

「その手があったっすね。さすが先輩」


 後輩は花見をサボった。

 行く途中で死にましたと、本人から電話があったらしい。

 翌日、アイツの席に一輪挿しを置いてやった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 会話劇のテンポが良く、読みやすかったです。何気ない一言が上手く伏線になっていて、クスリと笑わせて頂きました。
[一言] なんか映画「釣りバカ日誌」のハマちゃんみたいな後輩ですね^^ でもこれ、オチをちょっといじると怪談になるかも。 北海道はまだ雪が残ってますけど、そっちはもう花見ですかァ(*´д`*)
[良い点] テンポよく読めました( ^ω^ ) [気になる点] 実は後輩が [一言] 拝読しました。 もしや後輩はボクっ娘なのかと思いましたが、真性のモーホーだったのですね。 実話っぽくて怖かったで…
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