手紙の続き
君は何処にいるのだろうか。
ある物語にどうしようもなく巫山戯た軽い態度で外道を起こす根っから悪役です、みたいな登場人物がいたんだ。
目が隠れる真っ黒な丸いサングラスをしてニコニコ笑いながら「愛と平和 」を謳い人殺しをする悪い奴で何度も何度も主人公達の前に現れてやっつけたと思ってもしぶとく生きかえって舞い戻る何千年も生きた化物さ。
その人物が何をしたかったかは割愛するよ。
実際に本編を読んでくれ。
その悪人が
「忘れていくんだ」
と言った言葉が忘れられない。
今日人から聞いた話でもそんな言葉を聞いたよ。
「人が忘れていくのは辛い事をずっと覚えていたままでは、生きていけないからだ」
と。
そんなのは嫌だな。
忘れてしまうことが嫌だ。
君がいたことも君との思い出も全部樹脂で固めてしまえればいいのに。
可笑しな話だ。
君は僕の家を知っているのに僕は君が何処に眠っているのかも知らないのだから。
住所を聞いた僕に共通の知人は「君の意志は〜云々」なんて僕の聞きたいことの半分も答えてくれないよ。
僕もそうだが君の秘密主義も大概だな。
僕の周囲半径五千km圏内に入ってみやがれ簀巻きにしてグルグル巻きにして僕の側で風船のように引きずり回してくれる。
怖いな。怖くて仕方がない。
僕の前に横たわる君のいない膨大な時間を前に立ち竦む。
君にとって時間は惜しむ程早く過ぎ去っていったことだろう。
僕にとって時間とは有り余る程存在し端から腐っていくものなんだ。正直有ろうが無かろうが構わない。
寧ろあいつと君にぴったり分け与えられれば良かったのに。何処かの物語にそんな寿命をやりとりする話があった気がするよ。
知人に僕が怪しい人間でもただのストーカーでも無いと証明する為に君の赤裸々な告白文を送ることになりそうだよ。
僕だって僕だけに贈られた大切な言葉を他人に曝すのは本当に惜しいと思っているんだがね。ククク… 地獄で、もとい。天国又はあの世、いや違う。簀巻きにされた僕の左上辺りで羞恥に悶え苦しむが良い。
君は底無しにイイ奴だったからな。
多分キラッキラと輝く系の方に行けるだろうけど、まあ待ちたまえ。
チーターとナマケモノの恋はこんな結末になるのだろう。
速度と生きる場所が違い過ぎて。
偶々ナマケモノが根元にいる瞬間とチーターが木陰で休む瞬間が重なっただけの。
チーターは狩りに戻らなければ生きていけないから、行ってしまうその背を追いかけようにもナマケモノが手を伸ばした頃には届かないんだ。
君を誘き寄せる為の餌を何にすればいいのか分からない。
僕が両手を広げたらまんまとやって来るだろうか。