プロローグ~親子、村へゆく~
基本はフェルディア視点にしています。
よく変な夢を見る。
夢の中で僕は『ニホン』という国に住んでいた。
そこでは考えられないようなものがたくさんあるんだけど、夢の中の僕はそれが当然のように過ごしている。
いや、夢の中僕っていうのもおかしいと思う。
だってまず、身長がちがうもん。
あっちではお父さんのお腹ぐらいだったけど、こっちでは扉の上に当たりそうなぐらい大きくなってるんだもん。
というか、同じところなんか肌の色ぐらいしか見つからないよ。
もともと生まれたときから体が弱くて、あまり外に出ないせいで村のみんなより肌が白いけど、こっちも負けないくらい白いってことは、こっちも体が弱いのかな?
とにかく全然違うけど、なぜか他人だとは感じないんだ。不思議。
こっちで僕はいろんなことをしてる。
今日は『ガッコー』ってところに行って勉強してるみたい。
でも勉強するのに紙を使ってたり、昼ごはんで豪華なもの食べてたり、やっぱりこっちの僕は貴族だと思うんだ。
コトコトコトコト
あっ、この音はきっとお父さんが朝ごはんを作ってる音だ。
そろそろ起きるかなー
――――――
藁の上から起き上がり、扉を開ける。
「お父さん、おはよー」
台所のお父さんはこっちに向いて、
「おぉフェル、体は大丈夫か? 熱まだ出てないか? だるかったり、気分が悪かったりしないか?」
しつこいぐらい聞いてくる。そんなに心配しなくてもって思うけど、昔から僕がよく寝込んでいたみたいだし、そもそも昨日熱を出してしまったのは、一昨日調子に乗って外で遊びすぎたせいなので、何も言えない。
「うん、もう大丈夫だよ」
それを聞いてお父さんが僕の頭に手を当てて熱をはかってくる。
「熱は……無さそうだな。でも無理はするなよ」
はは、やっぱり心配性だな、お父さんは。
「わかってるよ」
「よし、じゃあ朝ごはん食べるぞ、先に座ってろ」
そう言って台所に戻ってお皿に盛り付けている。今日はパンとヤギのミルクにお豆のスープだ。
「「いただきます」」
食事の挨拶をして食べ始める。いつも食べている味なのに物足りないように感じるのはなぜだろう。
「ぼーっとしてるけどほんとに大丈夫なのか?」
どうやらだいぶ悩んでいたらしい。
「だ、大丈夫だよ。それよりお父さん、今日は何か用事があるの? なかったら今日も魔術教えてよ!」
村に行けるくらいは大丈夫なので強引に話題を変えてみる。
「んー、今日はフェルの様子を見てから村の方に行きたかったんだが……」
「だったら僕も連れて行ってよ。今日は本土から商人が来るんでしょう?」
「そういやそうだったな、薬草もできてる頃だし……」
「やった!」
「行くならちゃんと準備しなきゃな。裏から薬草を少しとってくるから、フェルも準備しとけよ」
「はーい、わかってるよ」
ここのところ村に行けなかったからやっぱりうれしい。
ご飯の後片付けをした後、上着と靴を着なおして裏口から出ていく。お父さんはちょうど畑で薬草を取り終わったところみたいで、かごに薬草が入っていた。
「お父さん準備できたよ」
僕の声に反応してお父さんが振り返った。
「父さんも準備できたからな、村に行こうか」
そういってわきに置いてあった鞄を背負って、僕に手を出してくる。家の山小屋は、実は村から歩いてだいぶかかってしまう。今は体力がついてきたので倒れなくなったが、昔はもっと体力がなかったので倒れていたらしい。なのでそれ以来村に行くときはいつもお父さんと手を握っている。
僕たちが住んでいるというか行こうとしている村は、この島で一番人の多い村だ。港があるのでよく本土から商人が来るらしく、僕たちみたいにその日に合わせて村に出かける人も少なくないみたい。そうこうしているうちに、村が見えてきた。
「まだ船は来てないみたいだね。いつもはもう来てるんだけど……」
「フェルが張り切ってたからな、いつもより早く着いたんだろう。なら先に道具屋によって行くぞ」
「そうだね」
そういって村の中に入っていく。人が住んでるだけの家もあるが村の真ん中は店が多い。僕たちはとりあえず道具屋に行く。
「道具屋のおじさん、おはよう」
そこにはごつい刃物を持った褐色のいかついおじさんがいるが、決して怪しい人じゃない。
「おはよう、フェイ君じゃないか。今日もお父さんとお薬売りに来たのかい?」
「そうだよ」
声もすごく低くて怖そうだけど、見た目とは正反対のとても明るいおじさんで、刃物は泥棒が来ないように持ってるだけなんだって。お父さんが島に来たときからお世話になってて、いつもここに薬を売りに来ている。
「おはようございます。今日も薬を売りに来たのですが」
「おぉ、ボーグさん、ちょうどよかったぜ。この前本土から来た変な奴が薬を買い占めていってな、薬が足りなかったとこなんだ」
「本土からわざわざですか? いったいどうして……どんな感じの人だったか覚えてますか?」
「おう、変な奴だからよく覚えてるぜ。全身を黒いローブで覆っててな、その中は白一色の格好で胸に黒い十字の首飾りがあったんだ。結構いい身なりしてたから、貴族の従者とかじゃないか?」
「黒十字の首飾り……」
「確かに変な格好だね」
本土から来た上にそんな変な格好なら僕だって覚えてるよ。
「そうか、フェイ君もそう思うだろ? そんでこう言ってきたんだよ、『町に薬草を売ってる薬師はどこか』ってな。この村から本土の町に薬草を売ってるのはあんたくらいなもんだから、この村には住んでないがこの薬はそいつが作ってるっていったら買い占めやがったんだ」
「それってお父さんの薬草が本土の貴族に有名ってこと?」
それってすごいことじゃないの?
「どうだろうな。まあ、なくはないと思うが」
「何日前かわかりますか?」
「たしか5,6日前だったと思うな」
「5日前じゃないの? 6日前は僕たちが来てたでしょう?」
「なら5日前だったな。フェイ君たちが持ってきてくれた次の日にきやがったんだ」
「まずいな……と、とにかくこれが今日持ってきた分です」
さっきからお父さんの顔が怖くなってるけど大丈夫かな?
「おう、お代はこんなもんか」
「ありがとうございます。それと、もしかしたらしばらくは旅に出るので薬を売りに来れないかもしれません」
「えっ!?」
なんなのお父さんそんな話聞いてないよ。
「そうか、気をつけてな」
「はい、さあフェル行くぞ」
「わっ、ちょっと待って。おじさんまた今度ねー」
お父さんはいつもと違って強引に僕の手を引いてくる。
「フェル君も気を付けてな」
だから旅なんかしないのに。そもそもさっきからお父さんは様子がおかしいよ。
「お父さんどうして旅に出るなんか言ったの?僕そんな話聞いてないよ」
お父さんは今まででみたことない怖い顔をして僕の肩に手をおいた。
「いいかいフェル、今日はもう家に帰ろう。」
「なんで? まだ商人さん来てないよ?」
「いいからすぐに村から出るぞ。理由は帰りながら説明するから」
そう言いながら再び僕の手を取って歩き始めた。気のせいかさっきよりも歩く速さが速くなってる気がしたけど、お父さんの迫力がすごくてそのままついて行った。
途中は無言だったけど、村が見えなくなったあたりでお父さんがもう一回肩に手を置いて話し始めた。
「フェル、隠すつもりじゃなかったんだ」
お父さんは困ったような、けどはっきりとした顔で言ったんだ。
「お前がもう少し大きくなったら話そうと思ってたんだ」
これからの僕の運命を変えることを。
「小さいころに亡くなったっていったお母さんのことだ」
僕とお父さんが抱える、けれど僕が知らない秘密を。
「お前のお母さんはな……魔族なんだ」
おかしなところがあれば指摘してください。