表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/46

CARD8

 ◇


「……土曜日か。幸せだ」

 目覚ましにたたき起こされることなく、自然と目が覚めた八時半。

 入学、そしてなし崩し的にトレカ部に入部してからから、一週間が経った。ただでさえ慣れない学校生活に加えて、放課後には毎日部活。長めの春休みの後ということもあって、もう金曜の時点でくたくただった。

 だから今日は家から一歩も出ないと決めていた。

「よし、有意義にだらけるぞ」

 部屋から出て洗面所へいきひとまず顔だけ洗ってリビングへ向う。

「おはよう」

 そこには妹の姿があった。

「めずらしいな。結衣がこの時間に家にいるなんて」

 妹の結は幼い頃からフィギュアスケートをやっている。実は、国際大会でも優勝経験がある、かなりの実両区を持ったスケーターで、スケートファンの間ではそれなりに有名な存在なのだ。

 結衣の生活は基本的にスケート漬け。毎日日の出よりはやくスケートリンクに向かい、夜遅くに帰ってくる。練習がお休みなのは元旦だけ、というほど厳しい。

「練習休みなの?」

 自分でもそんなわけはないと思いながら聞くと、答えはやはりNOだった。

「いや、今日は名古屋に行くから」

 普段は千葉のリンクで練習しているが、時々、ジャンプの指導をしてもらうために名古屋に練習に行く(ちなみに名古屋は一流選手を多く輩出している、日本屈指のスケート県だ)。

「もうすぐ行くの?」

「あと五分くらいしたら行く」

「がんばりなはれ」

 俺は棚からクロワッサンを取り出して食卓に着く。

「ところで、お兄ちゃん、何部に入るの」

 突然妹がそんなことを聞いてきた。

 一瞬、まだ決めていない、とごまかそうかと思った。

 いずれどこかで言わなければいけないことだ。

 ならさきにさらっと言ってしまったほうがいいいだろう。

「たぶんトレカ部」

 俺がそう言うと、妹は怪訝な顔をした。

「なにそれ。トレカって。あのトレカ? 昔やってたやつ?」

 その言葉の裏には、言うまでもなくカードゲームは子供がやる遊びだろうという、非難が込められている。

「一応競技中心の部なんだけどね」

「競技ってなによ。遊びじゃないの」

「プロもいるくらいメジャーな競技なんだよ」

「へぇ」

「練習週六回だからな」

 俺がちょっと反抗心を持ってそういうと、

「練習って。大げさな」

 妹は率直で、しかし世間的にはまったくもって正しい言葉で返してきた。

 まぁ、確かに。カードゲームをすることを、練習と呼ぶのは、一般人からしたらハテナだろう。

 ちなみにカードゲーマーも、練習という言葉はあまり使わない。アーツプレーヤーが練習といった場合、かなり限定的な意味になる。選択肢が多く、使うのが難しいデッキを、一人でシュミレーションすることを指す。

 一方、デュエルの練習することを“調整する”ということが多かったり。

「先輩は結構一所懸命やってるんだよ」

「ゲームを一所懸命やるって、変なの」

 まぁ妹のお言葉はごもっともだ。

「あ、わたしそろそろいくわ」

「あいよ」

「いってきまーす」

「がんばれ」

 妹が出かけると、家は静寂に包まれた。

 部屋に戻り、再びベッドに倒れこむ。さて、久しぶりの休日をどう過ごそうか。

 と、携帯のバイブ音が部屋に響いた。

 メッセージが届く。差出人はギャル子だった。


――今日、暇?


 いったいなんだ。

 まさか「今日暇?」「うん暇」「そうなんだ」と、暇かどうかを単に確認したいわけではなかろう。いかにも日本語的な聞き方。「暇?」という質問は基本的に「今日、一緒にどこかに行きませんか」というお誘いなはずなのだ。。

 でも解せない。女が男を誘う。これはいわゆるデート、というやつに当たるのではないか

 こいつ、俺のこと好きだったの? 一瞬そんなことを思うが、理性がすぐに否定する。

 そもそも、俺あまりギャルは好きじゃない。どうせデートするなら桜木先輩がいい。

 それに、俺は今日家にいると決めたのだ。


――暇だけど


 と打ってから、


――荷物届くから家にいないといけない


 と続ける。 

 完璧な言い訳だと思った。

 だが、それは裏目に出た。


――暇なのは暇なのね

――じゃああたしが優輝の家にいくから


 俺は目を疑った。

 ギャル子が、俺の部屋に来る?

 妄想が頭の中を駆け巡る。女の子が、男の部屋に来てやることなんて、一つしないじゃないか。

 幸い?、家族は外出している。これが高校生デビューというやつか。そのときは突然やってくるのか。


――っていうか、俺んち知ってるの?

――先輩が教えてくれた


 確かに先週、入部希望届に住所を書いた。


――じゃ、二十分後に行くから


 確か、ギャル子の家は以外と近くにある。駅でいうと一駅分。


――まじで来るの


 俺が聞くと、そのメッセージは既読にはならなかった。

 俺は覚悟を決めて、まず隠すものを隠すことにした。そしてシャワーに入り私服に着換えた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ